サービス提供者様の今回のシステム開発への想い
今回、スクウェア・エニックス様と共同開発したNFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー」では、これまでNFT(非代替性トークン)に触れたことがなかった人が、初めてNFTに触れ、誰かにプレゼントしたり、もらったりして感じる喜びを体験する機会を届けることを目指しました。暗号資産の基盤技術として利用されていることからも分かるように、ブロックチェーンは、アプリケーションに何らかの経済的機能を盛り込むうえで欠かせない技術です。ゲーム業界では、プレイすることで暗号資産がもらえるといった、経済性を盛り込んだゲームの将来性に世界的な注目が集まっています。また、ゲーム内で入手したアイテムやキャラクターの価値を担保し、デジタルシールの保有情報を証明し、譲渡する・売る・買うといった新たな遊び方を実現する手段として、NFTの活用が期待されています。
一般に、現在のソーシャルゲームでは、プレイヤー同士のアイテムの譲渡が禁止されています。NFTとゲームを組み合わせることで、これまでにない価値をユーザーに提供できるイノベーションが生まれるのではと期待しています。また、さまざまな産業・業種での新市場創出が期待されているメタバースでは、経済性をもたらす要素を含む点が既存の仮想現実(VR)空間とは異なってきます。ゲームへのブロックチェーンやNFTの応用は、その先駆けとなる挑戦だと考えています。
LINEとの連携
国内で約9,200万人のLINEユーザーとNFTをやりとりできる環境を実現
「資産性ミリオンアーサー」の開発では、面倒なウォレット管理といったブロックチェーン利用時の高いハードルを解消し、より多くの人に利用してもらえるUXの作り込みが最大の課題でした。そして、想定される利用シーンでのUX改善に向けて最も適したブロックチェーンがLINEの独自ブロックチェーン「LINE Blockchain」だったのです。数あるブロックチェーン技術の中で、LINE Blockchainは、ユニークな技術だと言えます。ブロックチェーンは、パブリックな場での情報のやり取りを前提として生まれた技術です。これに対し、LINE Blockchainでは、LINEがシステムと情報の流れを管理しています。さらに、NFTのマーケットプレイス利用において、必ずユーザーLINEのIDを持っている必要があります。これらの点をデメリットと捉える開発者もいるかも知れませんが、私たちは、LINEの管理のもと、LINEのアプリを入れている人ならば誰でも簡単にNFTをやり取りできる点が、代えがたいメリットとなると考えました。また、NFTを譲渡する際には、パブリックチェーンならばユーザーがガス代と呼ばれるトランザクション手数料を暗号資産で払う必要があるのですが、LINE Blockchainは、独自のブロックチェーンであるため不要です。しかも、ウォレット「LINE BITMAX Wallet」(※ 2023年3月2日「DOSI Wallet」に統合)とLINEアカウントを簡単に連携することが可能であり、日本国内に約9,200万人のLINEユーザーをパイとする巨大市場で販売できます。
LINEで即登録。販売していた人気NFTシールは発売後数十秒で完売に
「資産性ミリオンアーサー」は、2021年10月から3シーズンに分けてシールを販売しました。販売枚数を多めに用意していたのですが、予想以上のスピードで販売が進み、人気があるシールは発売してから数十秒〜数分後に完売しました。成功の要因のひとつとして、LINE上からすぐに登録できるため、NFTであるシールを簡単に入手できたことが挙げられます。社内の分析では、「ちょっと試しに買ってみよう」というユーザーを、取りこぼすことがなく取り込めたことが実証されています。今回、サービスのリリースに先駆けて、LINEの公式アカウントに登録してくれた全ユーザーを対象にして、プレゼントキャンペーンを行いました。その際、それぞれのユーザーには、意図的に同じ画像のシールを3枚ずつ配って周囲の人との交換を促したのですが、LINEの友だち同士の間で、アドレスの交換なしでシールが交換されました。通常のブロックチェーンで交換する際には、わかりにくい文字列の認識IDを打ち込んでNFTを送る必要があります。こうした手軽さは、他のブロックチェーンにはないLINE Blockchainならではの特徴です。
処理プロセスが管理されているため処理中のタイムラグを有効活用
「資産性ミリオンアーサー」では、購入したシールをもとに、ユーザーが好みの背景やフレームを組み合わせて、世界で唯一、自分だけのシールを作る「プレス」と呼ぶ機能を用意しています。そして、ブロックチェーンを使って、出来上がった1枚1枚のシールの価値を担保し、保有情報を明確にしています。この「プレス」は、ユーザー体験を良くするために欠かせません。ユーザーがシールを購入する際、暗号資産での決済を前提にするのならば、システムの構成は単純です。しかし、法定通貨である日本円で購入できるようにするためには、クレジットカード決済が必要になり、NFTを扱うブロックチェーンシステムとは別にクレジットカードのシステムを利用する必要が出てきます。すると、決済とNFTの付与それぞれの処理にタイムラグが生じます。一般的なブロックチェーン技術では、処理に要する時間が状況次第で大きく変わり、数分間もしくは数時間処理が終わらない場合もあります。こうなると、ユーザー体験は最悪なものになります。
「資産性ミリオンアーサー」では、決済とNFTの付与の間に「プレス」という遊び時間を設けることで、その間にNFT付与の処理を進める余裕を作りました。処理プロセスがしっかりと管理されているLINE Blockchainだからこそ、この処理が実用的な時間内に終わり、適用できました。