LINE API Use Case
LINE DC BOT AWARDS 2024 最優秀賞「看護師のぴえん相談室、ナースビー」作者 Plusbase様インタビュー
LINE DC BOT AWARDS 2024 最優秀賞「看護師のぴえん相談室、ナースビー」作者 Plusbase様インタビュー
株式会社Plusbase氏家 好野氏/ 株式会社ispec堀 雅晴氏
2024年7月26日
LINE DC BOT AWARDS 2024看護師のぴえん相談室、ナースビーで参加され最優秀賞を受賞されたPlusbase様にサービスのこと、開発のことなど色々お聞きしてきましたので、その様子をお届けします。
株式会社Plusbase 氏家 好野氏

株式会社Plusbase 氏家 好野氏

株式会社Plusbase CEO。リクルート退職後、AIを用いた看護師向けメンタルケアサービス「ナースビー」を提供するPlusbaseを共同創業。電子カルテや治療アプリの開発会社や、精神科向け電子カルテメーカーの事業開発としても参画中。2023年に自由民主党のリバースメンターに就任し、医療DXの政策提言も行っている。

株式会社ispec 堀 雅晴氏

株式会社ispec 堀 雅晴氏

株式会社ispec デザインエンジニア。医療領域でソフトウェア開発支援を行うヘルスケアテック企業ispecでデザインエンジニアとして活動。様々なプロジェクトの開発をリードしている。ナースビーでは、Messaging APIやLIFF、ChatGPTを用いた開発全般を担当。

LINEヤフー株式会社 Technical Evangelist 立花翔

LINEヤフー株式会社 Technical Evangelist 立花翔

個人アプリケーションデベロッパーとして世界中で1000万近くのユーザーと接点を持った経験を元に、デベロッパーのLINEの開発者向けプロダクトを利用したキャリアやビジネスの成功を支援。スマートフォンアプリはLINEだけ入っていれば良いという世界の実現を目指し、サービスプラットフォームとしてのLINEの利用啓発活動全般を担当している。

LINEと生成AIを活用し、メンタルヘルスの社会問題の解決へ

看護師のぴえん相談室、ナースビー Plusbase様

インタビューの様子



立花 まずは最優秀賞の受賞おめでとうございます。

ありがとうございます。

立花 まず最初にチームについて聞いていきたいと思うんですが、チーム構成はどのようなメンバーになってますでしょうか。

氏家 今現在は私と顧問の先生方、先生の研究室、看護職の方たちなどの小さいチームがメインでして、エンジニアについては堀さんなど外部のエンジニアにお願いをしている、という状況です。

立花 はい、わかりました。では作品の機能についてお聞きしていきます。まず、簡単に機能や価値などをご紹介いただけますでしょうか。

氏家 はい。私達は看護師さん向けのメンタルヘルスアプリをリリースしていて、メインの機能としてはLINEで悩み相談をしたら、AIのゆるキャラが相談にのってくれて、悩みを整理してくれ、最終的に最適な解決策の提案までしてくれる、というようなものになっています。

立花 ありがとうございます。私もちょっと触ってみましたが、非常によくできているなと思いました。相談しやすいですよね。とてもユーザーの声を大事にされているなというようなことが伝わってきました。

このサービスなんですけど、まず背景となった課題ですとか、また何か作ろうと思ったきっかけとかがあれば教えてください。

氏家 もともと私は看護師や医療職ではなく、このサービスを立ち上げる3年前にこの業界に入ったのですが、メンタルクリニックで看護師として働く友達がおりまして、彼女がカウンセラーもやっていたんですね。私が前職で休職した時も相談に乗ってもらっていて。

精神疾患による労災申請件数が全国で最も多い医療福祉職のメンタルヘルスに課題を感じていた彼女とビジコンなどにも出ていて、メンタルヘルスの相談の流れでこのサービスの原型となるようなものを検討していたところ投資家さんから興味を持って頂き、起業することになり、今に至ります。



絵本をつくろう

友だち追加はこちらから



立花 ちなみにサービスプラットフォームとしてのLINEの採用というのは、どのあたりのタイミングで検討を始められたんですか。

氏家 起業の半年前からLINEでというのは考えていました。2021年1月頃ですかね、コロナ禍真っ只中の頃、まだ全然アイディアベースだったんですがユーザーにSNSで「看護師の精神的疲労」に関するアンケートを取りました。回答は3日で600人くらいでそのうち100人からモニター登録の希望を頂きました。その方々とLINEモニターという形でつながっておこうと思ったのが始まりです。

その後いざ開発、となった段階でLINEモニターが既にいたのと、看護師さんはなかなかITになじみがない方が多いので、プラットフォームとしても普段使っているLINEを採用しよう、という判断をしました。

立花 なるほど。そのパターンは新しいかもですね。サービスがまだない準備段階ですでにLINEで繋がっていてということですよね。

氏家 はい、そうなります。

立花 友だち追加の段階ではユーザーではなくモニターなんだけど、徐々にその公式アカウントがアップデートされてサービスになっていく、という感じですかね。それはいいですね。ユーザー的にも本番バージョンをインストールし直したりとか、プラットフォーム変わったりとかっていうのがないので。

氏家 メールだと看護師さんはあまり見ないんです。仕事で使わないですよね。LINEだと配信しても届きやすいので、そこも重要なポイントかなと。

立花 ユーザーと一緒に作っていくみたいな感じでいいですよね。ユーザーからしてもフィードバックも寄せやすいし、それがすぐに反映されたりとかすると、また何か提案をしたくなるものなので。とても勉強になりました。ありがとうございます。

LINEでワンタップ&エンタメ要素でまずは最初の相談をしてもらう

立花 次に技術について聞いていきます。堀さんがご担当ですかね。よろしくお願いします。まずはサービスに利用した技術等々差し支えない範囲で教えていただければと思います。

はい。まずはLINEですね。ユーザー登録や、ぴえんの記録をカレンダーで確認できる機能をLIFFとNext.jsで実装しています。ユーザーとの相談、回答といったコミュニケーション機能は、Messaging APIとChatGPTを組み合わせて実現しています。



立花 カレンダー表示などは公式アカウントだけだと見づらかったりしますよね。上手く使われているなと感じました。ChatGPTの活用方法をもう少し詳しく教えて頂けますでしょうか?

具体的にはユーザーからBotへの発話を解析して相談内容を整理するところから、回答生成まで、全てChatGPTにやってもらってますね。

立花 なるほど。あまりにも回答が良く出来ているので人力も入っているのかなと思っていました。ChatGPTなんですね。

そうですね。キャラ設定や口調、絵文字の使用など細かくプロンプトを調整して、今はこのような形になっています。

立花 プロンプト大事ですよね。特に相談系だとあんまり的外れなこと言っちゃうとすぐにユーザーが離れちゃうので大変だと思います。

LINEの開発者向けプロダクトもいろいろご利用いただいていると思いますけど、何かのよく使ったAPIとか、これは便利だなと思ったとか、何かありましたか?

そうですね。テキスト以外だとテンプレートメッセージでボタン付きの画像を送ったり、クイックリプライを使用してユーザーが簡単にアクションを起こせるようにしたり、という工夫はしていますね。

あとはリッチメニューAPIですかね。ユーザーのアクションやステータスによって出し分けています。

立花 そうでしたね。ユーザーがサービスインストール、LINEの場合は友だち追加ですが、その後最初に何をやったらいいか分かんないとそこで離れちゃうじゃないですか。そこでリッチメニュー上に大きく見やすく「ぴえん」ボタンがあるのがすごい良かったですね。それは審査員のコメントにもありましたね。

氏家 そうですね。サービス自体、ぴえん相談室というテーマで、パッと見ふざけてるように見えるかもしれないですが実は明確に意図をつけてやっています。精神医療やメンタルヘルスの領域ってすごく固いですし、「死にたい」など希死念慮がある方も多い中、タメ語のゆるキャラが出てくるのはあまりなかったと思います。

LINEモニター時代も、結構固めかつクリーンだった時もあるのですが、それだとどうしてもハードルが上がってしまったり、見られてる感というか、運営がいますよ感が出ちゃうんですよね。

立花 めっちゃわかります(笑)。

氏家 で、こういった話をしていると自ずと企画会議も固く、暗くなってしまうので気分転換にギャルのようなポップな言葉でブレストをしていた中、悩みがある状態のことを自然と「ぴえん」という共通言語で話すようになりました。だったらぴえんの時に思い出してもらえるように、機能自体、ぴえんって名前にすればいいじゃん、と。

でも最初は結構勇気がいりました。ふざけすぎて炎上しないかな、とか(笑)。真面目な方が多い業界ですし。でもいざ出してみたら色んな方がぴえんボタンを押してくださって、相談件数も上がりましたね。

立花 ふむふむ。

氏家 結局最初のリリース時は敬語&ぴえんボタンでしたが、その後あるイラストレーターの方のゆるキャラを使ったメンタルヘルスの本がバズったのを見つけまして。そのイラストレーターの方にナースビーのキャラ、ねこぴーを描いていただき、一気に敬語も無くして、エンタメに寄せていきました。

結果、エンタメに寄せれば寄せるほど利用数も増えました。結構メンタルが辛い時に、難しい言葉はわからなかったり、入ってこないので、ゆるい世界観が良かったのだと思います。

立花 ですよね。一杯一杯の時に、漢字で病名とかワーワー言われても入ってこないですよね。

氏家 そうですよね。なのでその後もLINEでなるべくワンタップにするなど、「シンプルに相談するだけ」というところから派生できるように意識して作ってますね。

立花 普通のサービスでさえユーザー登録で結構離脱するじゃないですか。そこに来てこういう悩み相談とかになっちゃうと、更にハードルが上がるので、すごく重要なポイントなんでしょうね。

氏家 ですね。現状エンタメを主軸にしているメンタルヘルスのアプリって少ないので、今後もその軸を追求していこうと考えています。

立花 ちなみにユーザーからの評判というか評価ははすごくいいと思うんですけど、投資家の方から「これでいくの?」みたいな反応とかありましたか?

氏家 そうですね、やはりありました。なので真面目に説明する機会も作って、エンタメは敢えてやっているときちんと訴求しました。

立花 なるほど、でも今回そうやって結果が出たのであればこういったUXも受け入れられることも増えていくんじゃないかなと思います。もっと使いやすい相談アプリみたいなのが増えるといいですね。

自分たちだけの価値を提供し、全ての方の働きやすさを改善していく

立花 サービスについて今後の何かを企画されていることとか、将来とかもしあればお願いします。

氏家 そうですね、看護業界でのブラッシュアップを重ねたうえで他業種への横展開ももちろんありますが、働きやすさの改善の部分でB向けにも価値提供が出来ると思っています。そのあたりを筑波大の研究室と連携して研究開発を進めていきます。

これだけ生成AIも進化していく中、技術で優位性を出すのは結構難しいと思っています。なのでいかに我々だけしか取れないデータを取れるかや、ぴえんのようなユーザビリティなどでユニークな価値を提供する、データをきちんとエビデンスでバックアップするなどまだまだ出来ることはたくさんあって、今後も挑戦していきます。

立花 繰り返しになりますが我々では思いつかないようなUXを実現され、しかもユーザーにも受け入れられているということで今後に非常に期待しています。

最後に、何かこのインタビューを見てくれてる方にメッセージとあればお願いします。

氏家 私はこのサービスだけでなく、医療DXや医療現場の業務効率化も業務で携わっているのですが、それだけではなく、働きやすい文化づくりや、人間関係の改善なども並行して進めていかないと医療現場は変わっていかないと思っています。

ナースビーは医療DXに比べると収益性など多方面で課題はありますが、めげずに続けたいと思っているので、応援よろしくお願いします。

立花 おっしゃる通りですよね。氏家さんが取り組もうとされてる課題って看護業界に限定されない社会的な課題だと思っていて、こういったサービスがあることによって悩みが解決され、幸せになる方も非常に多いと思うんですよね。まずは誰かに話してみる、コミュニケーションを取ってみるといった簡単な方法で解決出来ることも多いのに、その第一歩のハードルがとても高かったりしますよね。

何かご支援できることがあれば言っていただければと思います。引き続きよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

(取材日: 2024年7月: 取材/立花翔, サポート/鈴木敦史)