LINEだからできる!島に降りた瞬間から始まるアプリ体験
佐藤 まずはじめに、miniamaの概要について教えてください。
窪田 miniamaは、海士町にはじめて訪れた観光客でも、住民との関わりを持ち、文化に触れる機会を提供する取り組みです。具体的には、「釣り竿をレンタルする」「島内唯一のパン屋でパンを食べる」といった、島内での様々な活動を「ミッション」として用意します。そのミッションを達成することで、「あまポイント」を貰えます。あまポイントは、海士町の地域通貨に引き換えたり、海士町の海に寄付したりできます。その結果、海士町にとっての関係人口、さらには熱量の高いファンである海士町オフィシャルアンバサダーを増やすことを目的としています。
※関係人口:特定の地域に継続的に多様な形でかかわる人のことhttps://www.chisou.go.jp/sousei/about/kankei/index.html

佐藤 miniamaは、どのようなきっかけでスタートしたのでしょうか。
窪田 海士町との事業は、1年ほど前に、大野氏との共通の知人から、「島根県の離島に面白い町がある」と勧められたことがきっかけです。実際に海士町を訪れてみると、様々な事業に取り組んでいる人と出会えて、とても刺激的でした。ただ、それらの活動の情報がまとまっておらず、人づてに紹介してもらわないと接点が得られませんでした。そこで、これらを可視化する必要性を感じました。
大野 海士町はこれまでも様々な施策に取り組んできました。しかし、各自が個別に事業に取り組んでいたため、全体としてのまとまりがなく、共同して情報発信する場がないことが課題でした。ちょうどその時、窪田さんとお会いして、既存の事業を可視化することで、もっと価値を高められると提案してくれました。
窪田 海士町で事業や催しに取り組む人たちと、関わりを作れる仕組みがあれば、きっと多くの人がこの町を好きになって帰ってくれるはずです。そこで、住民と来訪者の関係性づくりに役立ち、海士町の文化を知ってもらえる仕組みを一緒に作れないかと議論が始まったところから、miniamaがスタートしました。
佐藤 アプリやWebサービスなど様々な選択肢がある中で、なぜLINEミニアプリを選んだのでしょうか。
窪田 ネイティブアプリの場合、アプリのダウンロードから利用開始までにいくつものステップが必要で、その分ハードルが高くなりがちです。その点、LINEミニアプリの大きなメリットは、LINEさえ使っていれば直ちに利用できることです。
今回私たちが目指した体験は、島に来て、フェリーを降りた瞬間から始まります。miniamaの最初のミッションは、港でポスターのQRコードを読み込むことです。ネイティブアプリでは、QRコードを読み込んだら、アプリのダウンロードページに飛ばねばなりません。しかしLINEミニアプリであれば、そのワンクッションがなく、すぐに最初のミッションを体験することができます。自然と地域の人と関わりながら、立ち寄ったお店でQRコードを読み取るだけで体験が始まる。そこから他のミッションにも展開していく、回遊性の高い体験設計ができるのが、LINEミニアプリの強みです。まず行動してみるという、アクションファーストで体験が始まるところが良いですね。

一歩踏み込んだ交流を促進 ミッション型ロイヤルティプログラムとは
佐藤 miniamaは、SP EXPERT'Sが提供する、ミッション型ロイヤルティプログラムをベースにしているそうですが、採用した背景にはどのような狙いがあるのでしょうか。
窪田 観光客からすると、地域住民に話しかけるのは、少し躊躇してしまいがちです。そこで、ミッションを提供することで、気軽に住民に話しかける機会を提供すれば、会話のハードルを下げることができます。私たちが目指したのは、観光をきっかけに来訪者が関係人口へとステップアップする流れを作ることです。そのためには、地域住民との深い関わりが不可欠です。
大野 関係人口を増やすためには、「会話してもいいんだ」という感覚を生み出すことが重要です。観光地に行ってただ写真を撮るだけでは、地域との繋がりは生まれません。たとえば海士町には、亀田商店というとても美味しい豆腐を売る商店があります。島民であれば誰でも知っている情報ですが、観光客は、そこで美味しい豆腐が買えるどうか店構えだけでは分かりません。そこで「亀田商店で豆腐を買う」というミッションを設定することで、地域住民の暮らしに一歩足を踏み入れることができます。
普通、観光と暮らしは基本的に分かれていて、その間を橋渡しする仕組みがありません。しかし、海士町の本当の面白さは、単なる観光ではなく、住民と関係を持つことではじめて可視化されます。ミッションという仕掛けが加わることで、観光マップに載っていないお店やスポットに自然と足を運ぶことになります。miniamaは、観光文脈で訪れた人を、関係人口へと導く架け橋になっています。
佐藤 実際に、住民と来訪者との交流が生まれたエピソードはありますか。
大野 海士町役場に新たにできた交流スペース「しゃばりば」など、観光客が立ち寄りやすい場所ではよく声をかけていただきます。「ミッションが楽しすぎて、めちゃくちゃ回っています!」と、笑顔で言ってくださる方もいて、嬉しく思っています。
窪田 昨日、ミッションをこなすために島内唯一のパン屋さんを訪れたのですが、売り切れで購入できませんでした。そこで、店員に他におすすめの商品があるかを聞いてみたところ「この牛乳を飲んでみてください」と勧められました。牛乳を買うと、スプーンも一緒に渡され、不思議に思いながら開けてみると、上の部分がヨーグルトのように固まっていたんです。それが海士町でつくられているグラスフェッドミルクで、「スプーンですくって食べてくださいね」と教えていただきました。そうしたやり取りが自然に生じたことが、とても印象的でした。
佐藤 地域の内側に一歩踏み込んだ会話が、どんどん生まれてくるということですね。そうしたminiamaの取り組みの成果が、既に数字にも現れていると聞きました。
窪田 海士町の人口は現在およそ2,300人です。それに対して、miniamaの登録者は、すでに1万人を超えています。人口に対して、これほど多くの人が海士町に興味を持ってくれたのは、大きな成果です。

大野 スタートしてすぐに、何千人もの方がminiamaに登録してくれて、とても驚きました。LINEという誰もが気軽にアクセスできるプラットフォームを採用したことが、大きな要因でしょう。同時に、海士町に大きなマーケットが潜在しているという事実も、可視化されたのではないでしょうか。
佐藤 まさに数値として見えてしまったわけですね。今回のミッション型の仕組みを通して得られたデータや取り組みを、地域に還元したり、今後の事業改善に活かしたりするには、どのようなことが考えられそうでしょうか。
大野 今後の課題ではありますが、登録者1万人がどのような属性を持つのか、海士町を訪れた人と、まだ訪れていない人との違い、そしてどうすれば登録者を実際の来訪者へとつなげられるのかを、データをもとに、今後さらに深掘りしていくことが、地域への還元にもつながると考えています。
窪田 LINEミニアプリのデータとLINE Data Hubと連携すれば、miniama登録者1万人の詳細な分析が可能になります。今後、クリアしたミッションの情報や来島頻度といったデータを分析することで、miniama登録者の海士町との関係の深さを可視化し、地域経営に生かす仕組みを整備していきたいと思います。
工夫と熱量で、高品質な高速開発と地域による手作りを両立
佐藤 miniamaの開発には、どのぐらいの工数や期間がかかったのでしょうか。また開発するうえで工夫した点があれば教えて下さい。
窪田 実際の開発期間は、3~4ヶ月ほどでした。ミッション型ロイヤルティプログラムは、様々な企業に導入する前提で、複数の汎用モジュールから構成されています。miniamaのシステムも、モジュールをいくつか組み合わせることで実現しました。
佐藤 なるほど。柔軟にカスタマイズできる土台があったからこそ、短期間での開発が実現できたのですね。デザインについては、どのように進めたのでしょうか。
窪田 もともと海士町は、クリエイティビティにあふれる風土です。弊社のデザイナーが介入しすぎると、むしろ世界観を壊してしまうかもしれないと感じました。そこでデザイン面では、海士町の皆さんが主導で、弊社と役割分担しながら制作を進めました。
大野 これまで自分たちで仕組みを作ってきたので、SP EXPERT'Sとのコラボレーションは初めての経験でした。SP EXPERT'Sがしっかりとスケジュールをハンドリングしてくれたことが、miniamaの開発がスムーズに進んだ要因の一つです。
文言や画像など、miniamaのデザインは、ほとんど私たちのチームで制作しました。miniamaのデザインだけでなく、ポスターなど告知や導線用の素材も、海士町の有志による制作です。SP EXPERT'Sにはプロモーション力やデザイン面でのノウハウがあるので、その部分は学ばせてもらいながら、コンセプト面を私たちでしっかり決めて、すり合わせをしました。その結果、実現したいコンセプトを、最短で形にすることができました。
窪田 加えて、miniamaの開発にあたっては、海士町の関係者とのコミュニケーションも重要な要素でした。絶対に避けるべきことは、私たちが一方的に描いたプログラムを押し付けてしまうことです。海士町の関係人口を増やすという目標に向けて、どんなステップを踏んでいくべきか、大野さんたちと何度も話し合いながら進めました。
この短期間で完成できたのは、勢いもさることながら、何よりも海士町の皆さんの多大なご協力があってこそでした。大野さんのチームが、町のお店一軒一軒に丁寧に許可を取って、町全体が一丸となって協力してくれたことが、とても印象に残っています。
佐藤 合意形成まできちんと行ったうえで、このスピード感を実現しているのですね。海士町の皆さんの、miniamaに対する熱量が伝わってくるようです。
地方創生の成否を分けるのは地域住民の熱量
佐藤 他の地方自治体がこの仕組みを導入したいと考えた場合、まず何から始めるのが現実的なのでしょうか。また、導入における最大のハードルは何でしょうか。
窪田 システム面だけで言えば、ミッション型ロイヤルティプログラム自体は、すぐにほかの地域に展開できます。ただし重要なのは、その自治体が何を目的にしているか、最初に明確にすることです。海士町の場合は、「関係人口を増やす」ことが明確な目的としてあったので、それに沿ってミッションを設計することができました。しかし、各自治体によって特徴や目指す方向は異なるので、最初にヒアリングから始めることが必要です。
大野 一方、地方創生の取り組みでは、この目的のデザインも含めて外注してしまうケースが少なくないのが実情です。海士町と同じことをしたいと依頼されても、地域側が目的を明確にしていなければ、形だけの、魂のこもらない取り組みになってしまいます。その地域が何を実現したいのか、まず目的を明確化することが欠かせません。
窪田 結局のところ、成功事例を模倣しても、地域の住民やお店の方々が本気になってくれなければ、取り組みとしては続きません。継続のためには、地域住民一人ひとりが主体的に関わることが必要です。つまり「やらされている」のではなく、「この町を良くしたい」という強い思いを持った人と一緒に取り組むことが重要です。
佐藤 なるほど。仕組みとしての横展開は可能でも、継続できるかどうかは、地域側の熱量にかかっているということですね。
大野 そのとおりです。制度や予算面ではクリアできたとしても、地域ごとに熱量面で大きな格差があるのが、最大の課題かもしれません。miniamaのような仕組みは、本来再現性が高いはずですが、実際に成功させるには、地域住民の強い当事者意識が必要です。
今後の展望と取り組みについて
佐藤 今後の展望や取り組みについて、大野さん、窪田さん、それぞれの視点から教えて下さい。
大野 まず、海士町との最初の接点をいかに増やすかが課題です。ふるさと納税で海士町を応援してもらったり、私たちが東京でイベントを開催し、そこで出会った方を島に招いたりすることなどが考えられます。あるいは海士町の有名な宿に泊まりたいという動機でも構いません。実際に来島していただき、一緒に食事をしながら仲良くなって、再会を約束する関係が自然と生まれる。こうして生まれたリピーターから、関係人口が育っていくのです。
また、海士町の関係人口が、物理的に離れていても、海士町との関係を細く長く続けられる仕組みづくりも、今後の課題です。実際、海士町の税収に占めるふるさと納税の割合は大きく、外からの応援によって町が成り立っている側面があります。関係人口が、中長期的に地域経営に参画できる仕組みを整備することで、将来的には新しい形の地方民主主義につながるかもしれません。そのためには、デジタルを活用したプラットフォームは必要不可欠です。
窪田 SP EXPERT’Sとしては、この海士町との接点に、企業も巻き込んでいきたいと考えています。そこで今、様々な企業に、海士町とのコラボミッションの提案を進めています。これまで縦割りで運用されてきたミニアプリを、企業の垣根を超えてつなげることで、より面白い仕組みが作れるはずです。海士町の関係人口と、他の自治体の関係人口、さらに企業のコアなファンが交わることで、新たな交流のきっかけが生まれ、コミュ二ティをさらに活発化できるでしょう。もちろん、プロモーション色が強すぎると本質を見失うので、海士町のことを理解し、思いをもって関わることが大前提です。
そうすることで、単にソリューションの提供会社であるだけではなく、地域と企業を結びつけるパートナーになりたいと考えています。
佐藤 さまざまな接点やコミュニティが組み合わさることで、海士町に関わる人々にとって、魅力的な体験の総量がどんどん増えそうですね。本日はありがとうございました!
(取材日: 2025年5月26日: 取材/大場 沙里奈, 鍋島理人)