「褒められる体験」で孤独な料理を楽しく!Bistroアシスタントとは
大場 まず、Bistroアシスタントがどのようなサービスなのか教えてください。
中西 Bistroアシスタントは、弊社のスチームオーブンレンジ「ビストロ」をお使いのユーザー向けに提供している、月額制の有料サービスです。具体的には、専用のAIがLINE公式アカウントを通じてユーザーとチャットすることで、調理の困りごとをリアルタイムで解決します。例えば、ニーズに合わせたレシピや、食材を切らした場合の代替品の提案、調理方法や家電の使い方が分からないといった相談に対し、AIがその都度応答し、スムーズな調理をサポートします。
大場 調理中のサポートだけでなく、ユーザーのモチベーションを高める工夫もしているそうですね。
中西 料理は実はすごく孤独な作業で、モチベーションが上がりにくいという声をよくいただきます。そこで、料理が終わった後に完成した写真をLINEに送ると、AIが写真を分析して「美味しそうですね」と褒めたり、前向きなコメントを返したりする機能を搭載しています。毎日の料理は義務的なタスクになりがちですが、AIが褒めることで、ユーザーが楽しく料理を続けられる体験の提供を目指しています。
矢吹 サービスを利用されるユーザーは、料理のスキルに自信がない方や、毎日の献立に悩んでいる方が多いです。そのため、単に機械的な回答をするだけでなく、失敗してしまった時には改善のフィードバックを行ったり、別のアレンジを提案したりと、ユーザーに寄り添ったコミュニケーションを重視しています。
大場 写真分析の精度には、どのような手応えを感じていますか。
矢吹 私たち自身、写真分析コメントの精度は非常に高いと感じています。例えば、パスタの写真を送った際に「美味しそうなクリームパスタですね。コーンの彩りが良く、ほうれん草とのバランスもばっちりです」といった具合に、具体的な具材まで認識してコメントを返します。さらに、お皿との色合いのバランスや、相談したレシピ以外の小皿料理にまで言及することもあります。
中西 Bistroアシスタントがいれば、たとえ一人で料理していても、AIという他者が褒めてくれます。ちゃんと写真を見てくれているという感覚が、「次も頑張って作ろう」というモチベーションにつながっています。Bistroアシスタントは、単なるカスタマーサポートツールではありません。マイナスをゼロにするだけでなく、ゼロからイチの価値を生み出す、つまり料理を楽しい体験に変えることを目指しています。

大場 Bistroアシスタントは、料理の孤独を救ってくれるサービスですね。料理が楽しくなると、日々の暮らしがもっと楽しくなると思います。チャットによるAIとのやり取り以外に、LINE公式アカウントの機能は活用していますか。
中西 もちろんユーザーへの情報発信にも活用しています。調理家電のような高機能な機器は、最初に使い方を覚えてもらうことが必要不可欠です。そこで、最初の3ヶ月間は毎週、機器の使い方に沿ったテーマを配信し、まずはしっかりと機能を理解してもらうことを目指しています。そして習慣化できたタイミングで、季節に合わせたレシピ提案へと移行するように設計しました。実際、毎週の配信をもとに献立を決めているユーザーもいるそうです。
暮らしに溶け込むLINEをサービスの入口として活用
大場 ネイティブアプリを開発して独自の機能を提供するという選択肢もある中で、なぜプラットフォームとしてLINEを選ばれたのでしょうか。
中西 LINEは、最も日常的に使われているコミュニケーションツールの一つであり、ユーザーの生活に溶け込んでいることに魅力を感じました。調理家電の課題は、せっかく多機能で時短ができるのに、調理家電で作る習慣が定着していないため、結局使われるのは温めなどの単機能に偏りがちなことです。Bistroアシスタントは、まさにその習慣化を促すためのサービスですが、生活に浸透しているLINEこそ、ユーザーの入口としてふさわしいと考えました。自社で開発したネイティブアプリの場合、ユーザーのスマートフォンのホーム画面、いわゆるファーストビューに入り込むことは非常に困難です。ビストロで調理したいという明確な目的がある時以外は、なかなかアプリを開いてもらえません。
矢吹 LINEであれば、お昼休みに友人や家族と連絡を取るついでに、気軽にBistroアシスタントへ相談することができます。LINEを入り口にすることで、Bistroアシスタントの存在を自然と思い出してもらえる環境を作りたかったのです。
大場 確かにコストを掛けてネイティブアプリを開発しても、なかなかダウンロードしてもらえないというのは、多くの企業で課題になっています。Bistroアシスタントへのユーザーからの反響はいかがですか。
矢吹 アンケートでは、LINEで使えるという点が魅力として上位に挙がっています。新しくアプリを覚える必要がなく、使い慣れたチャット形式で相談できるという手軽さが評価されています。またAIと対話しながら、気軽に献立を相談できる体験自体が面白いという声も多くいただきます。
中西 LINEの操作性は非常に洗練されていて、UIが研ぎ澄まされています。このレベルの使いやすさを一から構築するのは容易ではありません。ユーザーがストレスなく使える環境を提供するという意味でも、LINEは最適なプラットフォームでした。また、アンケートの回収率という点でもLINEのメリットを実感しています。当初はメールで契約したユーザーにアンケートを送っていたのですが、メールは日常的に確認しない方も多く、回収率があまり高くありませんでした。そこでLINEを通じて配信したところ、回答率が大幅に向上しました。
人間のアドバイザーをAIで再現!プロンプト作成へのこだわり
大場 AIを活用するにあたり、プロンプトの作成にはかなり力を入れたと伺いました。具体的にどのような工夫をされたのでしょうか。
中西 実は、Bistroアシスタントの前身として、「Bistroアドバイザー」という個人間のマッチングサービスを試験的に運用していました。LINEオープンチャット上で、ビストロを使いこなしている料理上手なユーザーが講師となり、料理が苦手なユーザーをサポートするというものです。非常に好評だったのですが、コスト面で課題があり、生成AIベースに切り替えることになりました。その際に最もこだわったのは、人間とのコミュニケーションの感覚を、いかにAIで再現するかという点です。単に相談に答えるだけでなく、講師の人格を再現することや、どう伝えるかという振る舞いに、強いこだわりをもって作り込みました。
矢吹 ユーザーからの評価が高かったアドバイザーが、どのような点で好評だったのかを分析し、AIのプロンプトに反映しました。具体的には、どのような言葉選びをしているのか、絵文字をどの程度使うのか、どういった語調で寄り添っているのかといった要素です。
大場 LINEでのやり取りを、プロンプトの土台として活用したのですね。AIに切り替えることへの不安はありませんでしたか。
中西 人に褒められるからこそ嬉しいのであって、AIに褒められても嬉しいだろうかと心配していましたが、ふたを開けてみるとユーザーからも好評でした。人間同士のやり取りの良さがAIに反映されていることが、Bistroアシスタントの強みです。
大場 現在の形に至るまで、かなりプロンプトをブラッシュアップしたとのことですが、具体的にはどのような過程を経たのでしょうか。
中西 サービスの立ち上げまでに、PoC(実証実験)を3回ほど実施したのですが、その中でユーザーがつまずくポイントや、よく尋ねられるポイントが徐々に明確になりました。ビストロに関するナレッジは膨大なので、基本となる知識はサーバー側に保持し、必要に応じて参照しています。一方、絶対に間違えてはいけない重要な質問については、プロンプトに直接組み込み、正確に返答できるようにしています。説明の言い回しや応答の精度を高めるための表現なども、エンジニアと一緒に検討しながら改善してきました。
パナソニックらしさを生かし、キッチン全体で家電が連携する世界へ
大場 Bistroアシスタントの今後の展望についてお聞かせください。
中西 ユーザーの対話履歴の分析や、インタビューで得られたニーズを反映させていきたいと考えています。 例えば、ユーザーからは「冷蔵庫に余っている食材で何が作れるか知りたい」という声が多く寄せられます。弊社の冷蔵庫には、後付けでAIカメラを取り付けられるようになっていて、専用のネイティブアプリ「Kitchen Pocket」と連携することで、食材の在庫管理が可能です。現状もKitchen PocketとBistroアシスタントは連携可能ですが、AIカメラとも連携できるようになれば、賞味期限が近い食材を使ってレシピを提案するといったことが可能になります。
矢吹 パナソニックの強みのひとつは、冷蔵庫、炊飯器、オーブンレンジといったキッチン家電を網羅的に展開していることです。個々の家電が単体で機能するだけでなく、キッチン空間全体で家電同士が連携し、その中でユーザー体験を高めていくという方向性を、今後さらに追求していきたいと考えています。
大場 家電同士の連携が進むとさらに便利になりそうですね。一方で、現状の課題などはありますか。
矢吹 AIが提案したレシピの詳細確認や調理家電へのデータ送信には、KitchenPocketが必須です。そのため、現状ではLINE公式アカウントとKitchenPocketを行き来する必要が生じています。
大場 その課題解決には、LINEミニアプリが役立つかもしれません。LINEミニアプリを使えば、ネイティブアプリをダウンロードすることなく、LINE上でWebアプリと同等の機能を提供できます。レシピの確認や、Wi-Fi経由での機器へのデータ送信であれば、Webアプリベースでも実現可能かもしれません。もし実現すれば、相談からレシピ決定、そして機器への送信までを、LINE内でシームレスに完結させることができます。よろしければぜひご検討ください。
矢吹 調理家電との連携については、ネイティブアプリ側でかなり作りこんでいるので、LINEミニアプリで実現できるかは今後の検証次第かもしれません。ただユーザー体験をよりスムーズにするためにも、LINEという気軽な入り口とうまくつなげる方法を、今後も模索したいと思います。
大場 料理を楽しい体験に変えるBistroアシスタントを、LINEヤフーとしても技術面でしっかりサポートしたいと思います。本日はありがとうございました!
(取材日: 2025年11月27日: 取材/大場 沙里奈, 河本 貴史, 鍋島理人)




















