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ワンクリックで実現するAI農業:自動化の力で変わる農業の景色
ワンクリックで実現するAI農業:自動化の力で変わる農業の景色
AGRIST株式会社 清水秀樹氏 / 株式会社ゼンアーキテクツ 三宅和之氏 / 株式会社ゼンアーキテクツ 芝村達郎氏 / 株式会社ゼンアーキテクツ 横浜篤氏
2024年1月28日
人手不足、気候変動、フードロスなど、農業に関する課題に対する解決策として、AIやロボット技術の活用が注目を集めています。その中でも、AGRIST株式会社は自動で収穫するロボットを開発し、持続可能な農業を実現するスタートアップ企業です。この次世代農業の取り組みは、作物の状態をAIが識別し、効率的な収穫を実現することで、農業の未来に新たな可能性を切り開いています。今回はAGRIST株式会社のVice President of Engineeringである清水秀樹氏と、技術支援を行う株式会社ゼンアーキテクツの三宅和之氏、芝村達郎氏、横浜篤氏に、AIと農業のこれからについてお話を伺いました。聞き手はLINEヤフー株式会社の河本貴史が務めます。
AGRIST株式会社 Vice President of Engineering  清水秀樹氏

AGRIST株式会社 Vice President of Engineering 清水秀樹氏

システムエンジニア、プロジェクトリーダー、東京大学発AIスタートアップのロボット開発室室長などを経て、AGRIST株式会社に入社。「テクノロジーで農業の未来をデザインする」をテーマに、感動や体験を生み出すことが出来るワンクリック農業の実現に向けて現在活動中。ロボットは技術の総合格闘技との考え方から、AIだけでなく、ハードやエレキ、通信からクラウド、IOTまで幅広く手掛けることができ、最近では人とロボットの共存を目指すべく、性能だけを追い求める開発から「感動やワクワク体験」をデザインできるロボットの開発を進めている。

株式会社ゼンアーキテクツ 代表 三宅和之氏

株式会社ゼンアーキテクツ 代表 三宅和之氏

2017年からのMicrosoft MVPとしてコミュニティ活動や、クロスプラットフォーム・アーキテクトのスキル、技術アドバイザリを通じたビジネス経験、マイクロソフト・テクノロジーへの深い技術に関する知識を評価され、日本で5人目のMicrosoft Reginal Directorに就任。
X: https://twitter.com/kazuyukimiyake

株式会社ゼンアーキテクツ Distinguished Engineer 芝村達郎氏

株式会社ゼンアーキテクツ Distinguished Engineer 芝村達郎氏

コミュニティ活動などでshibayanとして広く知られている。主に Microsoft Azure の Serverless サービスとC#/ASP.NET Coreを利用して、様々なアプリケーションの開発支援業務に就く。Microsoft Top Partner Engineer Award Azure 部門受賞。

株式会社ゼンアーキテクツ Azure Expert 横浜篤氏

株式会社ゼンアーキテクツ Azure Expert 横浜篤氏

北海道千歳市出身。2017年よりMicrosoft MVP for AIを受賞中。Azure OpenAIをはじめとするAzure AI テクノロジー全般、及び Azure のPaaSとC#で構成するテクノロジー全般に加え、GitHub 関連技術を精通している。Azure AI をメインテーマとしたCogbotコミュニティ(https://cogbot.connpass.com)を主催。BEACHSIDE BLOG (https://blog.beachside.dev/)の中の人。

世界の農業課題を解決する、AGRISTの取り組みとは

清水 私たちは「農業の未来をデザインする」ことを目指しています。農業のイメージを変え、より多くの人々が農業に興味を持ち、参加できる世界を作りたいと思っています。

河本 AGRIST株式会社が設立された発端について教えていただけますか?

清水 私たちの代表が宮崎で行っていた、1粒ライチを1個1000円で販売するビジネスを通じて農家の方々と関わりを持つようになりました。その中で農家の方々から度々人手不足の相談を受け、ロボットが必要だと感じたことが設立のきっかけです。2019年にその収穫ロボットの開発を始め、2021年からはスマート農業へと事業をシフトしました。

河本 それは具体的にどのような事業なのでしょうか?

清水 スマート農業とは、ビニールハウスとロボットをセットで販売し、農業の効率化を図る事業です。ビニールハウス自体が一体化したシステムとなり、ロボットやセンシング技術などを組み込んだ最先端の農業を提供しています。

河本 それは非常に先進的な取り組みですね。

清水 ありがとうございます。私たちの目指すのは、誰でも使いやすい、そして効果が出るテクノロジーを活用した農業です。説明書を見なくても、経験者でなくても、誰でも最適な農業をワンクリックで営むことができる世界を目指しています。

例えば、これから営農を始めたい方向けに、地図を見て空いている土地をターゲットにし、その地域の気候による収穫量を数値で予測して提案するという取り組みが可能です。さらに、金融業界の企業と連携し、空いている土地をワンクリックすれば、その場でローンの審査に進むようなシステムも実現できる段階にあります。加えて、流通に関しても考慮しており、大手小売業者との連携を通じて、収穫された製品の出荷先とのシームレスなつながりを目指しています。これらの計画はまだ具体的に実現されてはいませんが、私たちはその可能性を積極的に追求していくつもりです。

世界の農業課題を解決する、AGRISTの取り組みとは
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河本 これまでお話しいただいた先進的な取り組みに基づき、今後の展望について教えてください。

清水 私たちのサービスが広く導入され大量のデータが得られることにより、より信頼性の高い分析データが取得できます。この分析データを活用すれば、地域別にどの時期にどれだけ作物を作ると需要と供給のバランスがとれるかといった事などがわかり、より効率的な農業が可能となります。

河本 それは、農業とデータ分析の結びつきが新たな価値を生み出すということですね。

清水 その通りです。私たちのサービスが広まれば広まるほど、その効果は大きくなるでしょう。そして、その結果を通じて、農業のあり方そのものが変わる世界を目指しています。

世界の農業課題を解決する、AGRISTの取り組みとは
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国内最高峰の技術集団が提供する、最短、最速で企業のクラウド活用を推進するサービス内容とは

河本 ゼンアーキテクツ様とAGRIST株式会社様の繋がりはどのように生まれたのでしょうか?

三宅 私たちとAGRIST株式会社様との繋りは、Microsoftのスタートアップ支援制度を利用されていたというところからでした。清水様がクラウドの利用を本格化させたいとお考えで、日本マイクロソフト様より私たちを紹介いただきました。

河本 具体的にどのようなサポートをされたのでしょうか?

三宅 私たちは、AGRIST株式会社様がこれから実施されるビジネスモデルに最適なシステムアーキテクチャーを構築することを支援しました。その中心には「データドリブン」な考え方があります。AGRIST株式会社の様々な方からヒアリングを丁寧に行い、ビニールハウスから上がってくるデータがとても重要であると考えました。そのデータをMicrosoft Azure(クラウド)に蓄積することでさまざまなサービスに展開できるようなアーキテクチャー作りを目指しました。

河本 そのアーキテクチャーはどのようなものなのでしょうか?

三宅 私たちはやはりデータが重要であると考え、データを取り込む部分とそのデータを活用する領域が疎結合になるように設計しました。左から右にデータが流れるアーキテクチャーの中で左側にAzure IoT HubやAzure Cosmos DBなどのサービスを集中して配置しているのはそのためです。ちなみに、プロトタイプのベースは2日で構築し、その後は清水様に独力で完成していただきました。

国内最高峰の技術集団が提供する、最短、最速で企業のクラウド活用を推進するサービス内容とは
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河本 その後の展開について教えていただけますか?

三宅 先ほどお伝えした通り、データを取り込む部分とそのデータを活用する領域を疎結合にしたことで、それぞれの領域に絞ってアプローチすることが可能です。その結果、今年大変な盛り上がりをみせている、生成AI(Azure OpenAI Service)を、このアーキテクチャーにスムーズに適用することができました。

国内最高峰の技術集団が提供する、最短、最速で企業のクラウド活用を推進するサービス内容とは
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河本 それは素晴らしいですね。そんなゼンアーキテクツ様が提供されているサービスについてもう少し詳しく教えていただけますか?

三宅 私たちの提供するサービスは主に3つです。

1つ目は、「Azure Light-up」です。これは日本で最も高い技術力を持つMicrosoft MVPを受賞してるようなエンジニアを中心に「ドリームチーム」を結成し、数日でクラウドに最適化されたシステムに生まれ変わらせるプログラムです。Microsoft Azureをこれから導入したい方にはこちらのサービスをご利用いただき、素早く成果が出せるような内製化支援を行っています。

次に、「ZEN Advisor」です。これはAzure スペシャリストによる QA サポートを中心としたアドバイザリサービスです。フォーラム形式でお客様の技術課題や新たな要件の実現をサポートします。

そして最後に、「DevOps with GitHub」です。こちらはGitHub との強固なコラボレーションを活かしたソリューションを提供しています。 ゼンアーキテクツは創業より15年以上にわたり DevOps 推進サービスを実施しており、GitHub を使った DevOps においても最適な解決策を提供可能です。

これらのサービスにより、必ずしも新たにエンジニアを採用することなく、既存の社員のスキルアップを通じてシステム開発を内製化する効果が高いと好評をいただいています。

清水 データは企業の命だと考えています。まさに経営の方針を決めていくにあたり、そのデータを活用することは会社の本業にあたる開発になるため、データ設計やシステム開発部分を外注することは全く考えていませんでした。そのため自社ですべて構築したいと考えており、MSスタートアップの担当の方に相談させて頂きました。外注に丸投げすることは本業を丸投げすることと同じだと私は考えていました。

三宅 ゼンアーキテクツのこういったサービスは、内製化しようとしているお客様向けなのでAGRIST株式会社様にもフィットしたんですね。

芝村 これまでも多くの企業様にサービスを使っていただきました。目に見えて力をつけていただいているのを実感する反面、質問がどんどん高度になってきて冷や汗をかくこともありますね。

三宅 そこに私たちの存在意義を感じています、高いレベルを目指す成長過程をぜひご一緒したいと思っています。

誰でも農業ができる時代へ、AGRISTのワンクリック農業戦略

清水 私たちが最も重視しているのは、ロボットやチャットなどではなく、データです。私たちの周りはデータで溢れており、農作物を育てるビニールハウス内も例外ではありません。温度や湿度など、ビニールハウス内には様々なデータが存在しています。

芝村 確かに以前、ビニールハウス内で取得したデータを見せていただきましたが、温度や湿度など、本当に多種多様なデータを取得していましたね。

清水 そうです。私たちはそのようなデータを全てクラウド上に上げ、後でさまざまな用途で利用していきます。

三宅 生成AIは、取得したデータを特に加工・フォーマットせず、またデータ項目を説明しなくても、温度や湿度のデータを見分けることができましたね。

清水 私たちは当初、雑に生成AIにデータを与えてみるという試みから始めましたが、予想外にも生成AIは雑多な状態のデータを解釈してくれました。この発見は非常にラッキーでした。データ構造を理解できるんだなと。

横浜 生成AIは主に文章の生成や会話文の生成に注目が集まりがちですが、こういった雑なデータを与えて、その内容を簡単に解釈して返してくれるという用途も非常に便利です。

河本 生成AIに欲しいものを作成させることに注力しがちですが、このようなインプット力というのも大きなメリットかもしれませんね。現状のAIのアウトプットをコントロールするのは難しいと思いますので、インプットをカジュアルに、アウトプットはシンプルなものを要求するというのはAIの活用の仕方としてとても良さそうです。

三宅 そうですね、我々も清水さんと一緒にプロジェクトを進めていく中で、色々と気づくことができました。

芝村 プログラミングやシステムに精通している人ほど、試す前に「これは無理だろう」と思い込みがちですが、最近のAIは我々の常識を簡単に超えてきます。

河本 たしかにIoT的なデータで生成AIを使うような活用事例は今のところあまり見ないかもしれません。

横浜 私たちも生成AIを活用するようになってから、考え方が大きく変わりました。固定概念にとらわれない考え方にシフトしています。生成AIの可能性はまだまだ広がっています。

清水 センシングから得られたデータを可視化するようなツールは世の中にいっぱいあるんです、しかしそういった可視化されたものってベテランの人じゃないと見ても活用しきれない、経験などに依存してしまう。そうではなく例えば「良い」か「悪い」かという「判断」を教えてほしいというのが本音です。

今の生成AIは世の中のデータを結構学習していますので一般的な判断力はある状態です。自前の農場シュチュエーションに合わせたかったら自前の農場のデータをプロンプト入力によって追加であたえるなどしてさらに判断力のチューニングもできます。

私たちが提供するワンクリック農業サービスを使い続けることで、自前のデータを日々蓄積し、生成AIの判断力はますます向上していきます。そのためユーザーはあまり難しいことを考えずにAIがレコメンドしてくれた内容にそって、アクションボタンをポチポチとワンクリックでどんどん進めて営農が出来るようになります。

横浜 今年はMicrosoft のBingもAIをフル活用して現在画像もまじえて解釈ができるようになっています、これからマルチモーダルなどAIの展開はまだまだ面白くなっていきますよ。

誰でも農業ができる時代へ、AGRISTのワンクリック農業戦略
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ユーザー向けサービスの最適解、LINE活用で生み出されるスピード感

三宅 ユーザー向けのサービスのインタフェースを一から作るのは時間がかかります。大量の資金を投じてフロント部分をゼロから構築するのは、効率が悪いです。

芝村 さらにユーザー向けのサービスは、サポートから何まで非常に大変ですからね。例えば、顧客サポートは商品に関する問い合わせ処理等、幅広い要求に迅速かつ効果的に対応する必要があります。スマートフォンアプリの開発においては使い勝手や機能要望等、製品の品質向上のため、多岐にわたるフィードバックを考慮する必要がある分、時間とコスト面で課題があります。

アイデアと迅速なリリースは、競争の激しいビジネス環境において成功を決定づける鍵になります。特にその成功にはユーザーインターフェースの使いやすさが大きく依存していると考えます。 利用者にとっては、 LINEはアプリを開くだけでログインが可能で、追加のアプリダウンロードが不要な点で、ユーザーフレンドリーで気軽に利用を開始することができます。 サービス提供者にとっては、フロントエンドに特化したLINEを活用し、UIの開発にかかる時間と労力を節約し、より機能面の開発に集中することができます。加えて、知名度があること、そして日本語で利用できることなどが大きなメリットだと感じます。日本においてLINE以外の選択肢がほぼ存在しないと言えますね。

清水 「あぐりすたんと」はまさにその象徴です。LINEやMicrosoftなどの優れたテクノロジーを最大限に活用し、固有のデータなどを組み合わせてスピード感のあるサービスリリースを実現しました。

ユーザー向けサービスの最適解、LINE活用で生み出されるスピード感
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LINEを活用した農業サービスの新機軸 - 「あぐりすたんとPlus(仮)」の展望

清水 私たちのサービスはセンサーやロボットなどが組み込まれているため、全体の構築には時間がかかりますが、LINE公式アカウントと簡易的なセンサーを使った提供についてはスピーディに実現できると考えています。さらに、課金の仕組みについても検討しています。

河本 LINEだからといって決済がLINE Payだけに限定されるというわけではありません。Stripeを活用してクレジットカード決済を組み込むことも可能です。

清水 決済の仕組みが整えば、ユーザー向けのサービスを企業向けよりも軽量化し、迅速に提供できると考えています。農業は家族経営も多く、BtoCの比率が高いため、LINE公式アカウントを活用したBtoC展開には大きな可能性があると思っています。ライトなプランから充実したプランまで、充実したラインナップを用意していくことを検討しています。

横浜 生成AI技術はまだまだ発展していきますが、その価値を最大に引き出すには、我々が持つ独自のデータが鍵になると思います。

三宅 私たちのサービス「Azure Light-up」の利用を通じて生成AIの活用を考えた時、多くの企業様が自社のデータ整備が追いついていないという現状に気づかれます。私たちのサービスがデータの重要性を再認識する良い機会になってそうです。

芝村 結論はやはりデータが重要ということになりますね。

清水 私たちは「Azure Light-up」を通じてデータの重要性を最初から認識することができました。今非常に状況が良いことから、私たちの進め方が間違っていなかったと確信しています。今後は、LINEの活用をさらに進め、新しいサービス「Plas(仮)」のリリースに向けて取り組んでいきたいと考えています。

LINEを活用した農業サービスの新機軸あぐりすたんとPlus(仮)」の展望

(取材日: 2023年9月: 取材/河本貴史, サポート/大場沙里奈, 鈴木敦史)

AGRIST株式会社
企業名AGRIST株式会社
URLhttps://agrist.com/

会社の紹介情報

AGRIST株式会社は「テクノロジーで農業課題を解決する」をミッションに100年先も続く持続可能な農業の実現に向けて活動している企業です。「収穫ロボットが必要だ」 という農家の声から私達のロボット開発は始まりました。テクノロジーで農業課題を解決する事がAGRISTの使命です。 私達は持続可能な農業を実現し、さらに培った経験とデータを活用し世界の食糧課題の解決を行うことで、全人類の幸福・ウェルビーイングに貢献します。

株式会社ゼンアーキテクツ
企業名株式会社ゼンアーキテクツ
URLhttps://zenarchitects.co.jp/

会社の紹介情報

Microsoft MVP (Most Valuable Professional) を中心に専門チームを結成し、PaaS・Serverless技術に特化したエンタープライズ向けクラウドアプリケーションの導入支援並びに、 日本有数の GitHub Verified Partner として DevOps サポートを実施している。マイクロソフト認定パートナー( Digital & App Innovation ソリューションパートナー、Azure Specialization 取得)。マイクロソフト ジャパン パートナー オブ ザ イヤー 2023 を Advisory Services 部門にて受賞。