LINE API Use Case
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【前編】マイクロソフトとLINEヤフーがタッグを組む小売DXプロジェクトとは?小売業界に伴走し、変革を支えるための取り組み
【前編】マイクロソフトとLINEヤフーがタッグを組む小売DXプロジェクトとは?
小売業界に伴走し、変革を支えるための取り組み
日本マイクロソフト株式会社 藤井創一氏 / LINEヤフー株式会社 富澤健人
2023年06月29日
消費者のライフスタイルや購買行動の変化により、小売DXが大きな注目を集めています。小売DXにおけるマイクロソフトとLINEヤフーの協業は、小売業界にどのようなインパクトをもたらすのでしょうか。日本マイクロソフト株式会社の藤井創一氏と、LINEヤフー株式会社の富澤健人にお話を聞きました。
日本マイクロソフト株式会社 藤井創一 氏

日本マイクロソフト株式会社 藤井創一氏

  • ・エンタープライズ事業本部 流通業施策担当部長
  • ・2001年日本マイクロソフト入社。
  • ・リテイルインダストリーマネージャーとして同社流通業向け戦略策定と市場開拓を担当し、同業界向けソリューション開発及び販売・マーケティング施策活動全般に従事。
LINEヤフー株式会社 富澤健人 氏

LINEヤフー株式会社 富澤健人

  • ・2005年ソフトバンク入社。
  • ・新規事業開発やロボティクス事業の事業企画に従事。
  • ・2022年2月よりLINE株式会社にてLINE公式アカウント、LINE STAFF STARTの事業企画に従事。
  • ・現在LINEのAPIを活用した事業開発やMicrosoft Azureパートナーとの小売DXプロジェクトを主導。

マイクロソフトとLINEヤフーにとっての小売DXとは?

――Q.小売DXという言葉が登場し、小売業界においてDXが急速に進んでいますが、両社にとって小売DXとはどのような意味を持ちますか?

藤井 一般的にDXとは、業務効率化や顧客との接点などにデジタル技術を活用して、新しい価値を創出することだと言われています。初期には、既存業務をデジタルに置き換えることと混同されていたこともありましたが、現在では、デジタルで事業やオペレーション自体を変革していくことだという認識が広まってきています。
小売DXを促す最大の要因は、消費者の変化です。特に小売業界では、スマートフォンの普及に伴い、消費者の購買行動が大きく変わりました。また商品の選択肢や物量が豊富になり、単純な陳列だけで売れる時代は終わりました。このような変化に追随して、小売事業者も変革を迫られているのが実情ではないでしょうか。

富澤 この数年間、新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークが増えたことから、小売業界に限らず様々な業界で、DXという言葉が注目されていると感じています。
私にとってDXとは、デジタルを活用して、現場からサプライチェーンに至るまで、企業が抱える経営課題を解決し、さらに変革していくものです。
ただし、単に業務をデジタル化するだけではDXとは言えず、顧客の視点でのCX(顧客体験の変革)に加え、従業員の視点でのEX(従業員体験の変革)も含めて取り組むことで、ようやく本当のDXに到達するのではないかと思います。

日本マイクロソフト株式会社 藤井創一氏とLINEヤフー株式会社 富澤健人

日本マイクロソフト株式会社 藤井創一氏とLINEヤフー株式会社 富澤健人

小売業界におけるDXの進展と今後の方向性

――Q.小売業界が目指すDXについて、昨今どのような進展があり、今後どのようになっていくのかについての見解をそれぞれご意見をお聞かせいただけますか?

藤井 元々小売業界は、変化対応ビジネスという側面が強いので、DXに積極的な傾向があり、特性として特に重要視されるのは、顧客接点におけるDXだと感じます。スマートフォンによる消費者の変化や、コロナ禍をきっかけにしたオンライン需要の伸びなどを背景に、店舗も含めたオムニチャネルの強化にも取り組んでこられました。加えて、生成AIの登場など、テクノロジー面でのブレイクスルーも追い風になり、今後さらにDXが加速していくと考えています。

一方で、小売DXにはいくつか課題も存在します。まず、各事業部門やシステム間の連携が取れていないことが多いです。例えば、オムニチャネルやOMO、ユニファイドコマースなどのプロジェクトでマーケティング部門が個別にアプリを開発して、情報システム部門が店舗システムを作っているけれども、それぞれの連携が取れていないというようなケースです。次に、スマートフォンアプリの難しさです。アプリにはユーザー獲得やデータ分析など特有の難しさがありますが、インストールベースが増えなければ、投資したコストを回収できず、開発が止まってしまいます。しかし、開発が止まれば、ユーザーはあっという間に離れてしまいます。そこに、最近の世界的危機による仕入れや物流のコスト上昇が追い打ちをかけています。元々利幅が多い業界ではないので、デジタル投資の元手を確保するには、生産性の向上や無駄の削減の論点の重要性が増しているのです。このような状況を背景に、DXに取り組みたいが、思うように推進、継続できないという状況が顕在化しています。しかし、そういった挑戦を進める過程で、例えば、顧客チャネルの革新に必要な、サプライチェーンやロジスティクスの変革を進める動きも非常に強くなっています。バズワードとしてのDXではなく、今後は企業全体の戦略として、持続可能なDX模索が加速していくと期待しています。

富澤 藤井さんが仰る通り、コロナ禍の影響で、デジタル接点を強化する取り組みが増えてきたことを実感しています。身近な飲食店がモバイルオーダーを導入するなど、オンラインの顧客接点がどんどん増えてきています。
一方、DXに取り組みたいという企業は多いのですが、今後どのように進めていけば良いのか悩んでいる企業が多いように感じました。「顧客接点を増やしたいけれど、やり方が分からない」とか、「顧客接点を増やしたは良いものの、データの活用法が分からない」といった声をよく聞きます。

こうした現状を踏まえた上で、今後は「体験軸」が重要になると思います。つまり、消費者に継続的に来店してもらうために、サービスを通してワクワクするような体験を提供し、再訪を促すきっかけにすることが重要だと考えています。従来のビジネスモデルのように、お互いに価格競争によって疲弊していくのではなく、独自のアプローチで顧客のロイヤリティを高めていくことが必要です。

最近の動きで興味深いのは、24時間営業を止めたり、店舗の拡大路線から集約する方向に切り替えた小売事業者が登場していることです。
そうすることで、従業員の負担を軽減して、サービス品質を向上し、顧客の満足度を高めていくことができます。
このような取り組みは、変革という意味ではDXにも通じると思います。

――Q.顧客の購買行動が変化している中で、小売業界が持続的に成長するためには、どのような取り組みが必要だと考えますか?また、マイクロソフト社、LINEヤフー社は、業界に向けてどのような取り組みをしているのでしょうか?

藤井 マイクロソフトは、小売業界に特化したクラウド製品なども提供していますが、それ以上に注力しているのは、小売事業者自身が積極的にDXに取り組める状態を作ることです。DXには、ビジネスを変革し続けるという意味合いもあるので、導入して終わりではありません。継続的な取り組みには、読み書きするようにデジタルツールを使いこなし、データを参照しながら日々のオペレーションを決定できる人材育成が欠かせません。

またデジタル施策には、アプリやシステムの開発が必要になることもあります。ただし、新しいビジネスでは、従来の小売業界におけるチェーンストアオペレーションのように、成功が約束されたパターンは存在しません。素早くトライアンドエラーするには、従来のように、時間をかけてシステムを作り込むのではなく、疎結合で柔軟性のあるクラウドテクノロジーを組み合わせなければなりません。またデータ収集と分析を通して、検証と改善のループを継続的に回す必要もあります。そのようなチャレンジを安心して行うためには、データを正しく取得すると共に、消費者の情報が漏洩しないよう、セキュリティを確実にしなければなりません。

その意味では、単にデジタル人材を育成するだけでなく、技術者の育成も重要です。新しいアーキテクチャや開発手法などについて、しっかり理解してもらう必要があると感じています。そこでマイクロソフトは、小売事業者と、店舗システムベンダーなどのパートナー企業に向けて、店舗向けのクラウド基盤の整備とサービス連携のトレーニングを提供する、Smart Storeという取り組みを3年ほど続けてきました。しかし、現在の消費者がスマートフォンを最重要のデバイスと位置付ける中で、私たちの取り組みを広げる必要があるとも感じていました。それが、LINEヤフーとの協業のきっかけです。

富澤 先ほど、消費者のリピートを促すには、価格競争力だけでなく、そこでしか味わえない体験軸のサービスが重要だと述べました。LINEは9500万人以上(2023年3月時点)のMAUを誇り、消費者にとっても気軽で使いやすいアプリです。そこで、消費者にワクワク感や面白さといった購買体験を提供するためのツールとして、LINEヤフーを小売業界に活用してほしいと考えています。このような消費者のロイヤリティを高める取り組みに伴走することが、LINEヤフーのミッションだと考えています。
しかし藤井さんも仰る通り、小売DXの実現には、顧客チャネルだけでなく、バックヤード業務の変革も不可欠です。
LINEヤフー単独では、小売DXのすべてに伴走するのは難しいというのが実情でした。
そこで、マイクロソフトとLINEヤフーが共同で進めているのが「小売DXプロジェクト(※1)」です。小売DXを進めるには、人材育成などの支援体制や、クラウドテクノロジーの土台が重要です。また、小売業界や、業界向けソリューションを提供するパートナーとの協力も必要です。
そのためには、関連業界と深い関係を持つマイクロソフトとの協力は欠かせません。そこで小売DXプロジェクトは、マイクロソフトの強力なクラウド基盤と、パートナー各社のソリューションを組み合わせて、LINEを通じてワクワクするような購買体験を消費者に提供することを目指しています。
現在、商品データベース、スキャンソリューションやオンライン接客ソリューションなど、16社のパートナーと共にプロジェクトを進めています。

※1: 小売DXプロジェクト: https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2021/3978

(取材日: 2023年5月: 取材/鍋島理人, サポート:大場沙里奈, 鈴木敦史)

日本マイクロソフト株式会社
企業名日本マイクロソフト株式会社
URLhttps://www.microsoft.com/ja-jp/

会社の紹介情報

マイクロソフトは、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」を企業ミッションとして、インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ時代のデジタルトランスフォーメーションを実現するテクノロジー基盤とサービスをご提供しています。