AIチャットくんのプラットフォームにLINEを選んだ理由
河本 ChatGPTをLINEで使える「AIチャットくん」が爆発的な人気を博しています。アプリをリリースする方法は様々ですが、なぜLINEをプラットフォームとして選んだのか、決め手となった理由についてお聞かせください。
渋谷 ChatGPT APIが公開されたと聞いて試してみると、高速性やレスポンスのクオリティなど、実用性の高さに驚き、身近なスマホで使いやすくしたいと思ったのがきっかけです。
さらに通常のモバイルアプリより、ユーザーにとって身近なLINEの方が使いやすいというのがありました。
また、スマホのブラウザからChatGPTを使うと、画面表示の乱れや、毎回ログインが必要になる煩雑さのせいで、操作感が良くないというのもあり、LINEからChatGPTが使えるようになると、最初にLINE公式アカウントを友だち追加さえしてしまえば、ログインの手間なく、友人とLINEするような感覚でChatGPTと会話することができるのも嬉しい点でした。
まずは自分やその周囲だけでも、LINEからChatGPTを使えるようにしたいという思いで、開発をスタートしました。
河本 LINEを選んだ理由は、ユーザーフレンドリーで、多くの人々に既に広く使われていて、簡単に使えるからということですね。
株式会社piconがLINE上でリリースした初のサービスとのことですが、最初からLINEのメリットを知り尽くしていて、素晴らしいです。
渋谷 そうですね。LINEは私自身、日常生活でめちゃくちゃ活用しているアプリなので、良さを実感しているというのが大きいですね。
LINE API開発のスピード感とコミュニティのサポートで爆速リリースを実現
河本 AIチャットくんは、3月2日にChatGPT APIがリリースされたまさにその日にリリースされたと聞き、そのスピード感に驚きました。実際にLINE APIでサービス開発をしてみて、どのような印象を受けましたか。
渋谷 Messaging APIについてのドキュメントや情報が充実していて、初めてにも関わらず、とても簡単にLINEに対応したBotを開発することができました。
開発の方法もユニークで、ChatGPTにLINEに対応したBotの雛形を作らせるところから始めました。すると、ほぼ動くコードが返ってきたので、それをベースに開発を進めていきました。それほど簡単に使えるものだと感じました。
河本 LINE APIの使いやすさに加え、開発にもAIを活用したことが、スピーディーなリリースに繋がったわけですね。AIチャットくんのリリース後に気付いたことはありますか。
渋谷 LINE APIを活用することで、シンプルな会話だけでなく、様々なユーザー体験を提供できるという点です。それまでは、友だちとのメッセージを、Botサービスに置き換えたものというイメージしかありませんでした。
しかしAPIを調べたり、LINE API Expertの方と会話する中で、カルーセルテンプレートによる情報の整理や、クイックリプライによる入力アシストなど、様々な作り込み要素があることに気付きました。
現在は、操作ガイドとしてリッチメニューを活用することに取り組んでいます。
河本 シンプルなインターフェースで、多様なユーザー体験を設計できることも、LINE APIの魅力ですね。
LINE APIとマイクロソフト技術の二本柱で加速する成長
河本 LINE APIと並んで、AIチャットくんを支えるもう一つの柱が、マイクロソフト技術の活用だと聞きました。
株式会社piconはスタートアップ支援制度「Microsoft for Startup」にも採択されたそうですが、マイクロソフトの技術に期待していることについてお聞かせください。
渋谷 マイクロソフトは、OpenAIに出資していることや、AI製品リリースのスピード感や品質を考えれば、AIの第4の波におけるリーディングカンパニーになることは間違いないと考えています。
またマイクロソフトは、セキュリティやプライバシーへの取り組みにも力を入れており、日本のエンタープライズ企業との協業でも確かな実績があります。
その知見と技術サポートを活用することで、より多くの人々にリーチし、より大きな価値を提供することができます。
河本 ユーザーが安心してサービスを使う上で、セキュリティに注力することは欠かせませんよね。技術的な強みはもちろんのこと、今後、様々な企業とコラボレーションしていく上でも、マイクロソフトのセキュリティやエンタープライズでの実績は心強いですね。
渋谷 もう一つ重要なのが、スタートアップ支援制度が充実しているので、事業の成長に注力できることです。Microsoft for Startupでは、技術面やビジネス面での支援に加え、Azureクレジットの提供など開発・インフラ面でも支援を受けられるので、ものすごく恩恵を受けています。
LINEとChatGPTがもたらす AIが日常に溶け込む世界
河本 AIチャットくんは、リリースからわずか1ヶ月で100万ユーザーを突破しましたが、SNS上でユーザーからのたくさんの反響があると聞きました。
それらの中で、印象に残ったものはありますか。
渋谷 AIチャットくんを通して、主婦の方から小学生まで、幅広い層の人々がAIに触れているのが印象的でした。
例えば趣味の会話や悩み相談、献立の立案や引越し計画の提案など、人々の日常に溶け込むようなユースケースが生まれているのが、ユーザーの声から感じられました。
従来は、PCのブラウザからのChatGPTを利用していたので、どうしてもプログラミングや仕事効率化といった用途が多く、敷居を高く感じていた人が多かったのではないでしょうか。
LINEと融合することで、一気にAIに触れるハードルを下げることができたのではないかと思います。
河本 AIチャットくんが新しいユーザーとユースケースを開拓したのは、AI普及への貢献という観点で素晴らしいですね。
これはChatGPT単体では実現できなかったかもしれません。渋谷さんは、ChatGPT自体について、どのような印象をお持ちですか。
渋谷 ChatGPTからは、産業革命に匹敵する大きな変革が起こっていると感じています。
例えば、蒸気機関が発明された際には、多くの人が職を失うのではないかと不安に思ったことでしょう。現代でも同様の心配をしている方が多いかもしれません。
そこで、私たちができることは、AIチャットくんを通じて、多くの人々がAI技術に取り残されないよう支援し、最先端の技術に触れる機会を提供することです。
そうすることで、人々の生産性や創造性の向上に繋げたいと考えています。
AIチャットくんと株式会社piconが描く今後の展望
河本 AIの民主化という意味で、AIチャットくんの今後に大きな期待が掛かりますね。今後AIチャットくんはどのような展開を考えていますか。
渋谷 現在AIチャットくんのLINE公式アカウントの総友だちは100万人で、人口に占めるシェアは1%に満たないので、まだまだ道半ばです。
10%を超える規模になって、初めて提供できる価値が生まれると考えています。そのため、年内に1,000万人のユーザー数到達することを目指して、PR活動を継続しながら、ユーザーのニーズに応えた最適化された利用方法を提供するアップデートを計画しています。例えば、飲食店やホテルを探す人など、特定の用途に合わせて最適な情報を提供できるように、ChatGPTだけでなく他のAI技術も検討しています。
また、LINEのグループでの利用も可能にするなど、ユーザーからのフィードバックを受け取りながら、より幅広い価値を提供するアプローチを取っています。
河本 AIチャットくんを日本人全員に届けたいという思いが伝わってきます。企業としては、今後の展望をどのように描いていますか。
渋谷 AIチャットくん以外では、BtoBの企業コラボレーションを強化したいと考えています。Microsoft BingやNotionに代表されるように、既存のプロダクトにAIを組み込むことで、大きな価値が生まれます。
同様に、日本のエンタープライズ企業の既存サービスに弊社の技術を組み合わせることで、AIチャットくんではリーチできない人々に価値を提供したり、今まで想像もしなかった新しい価値を生み出す可能性があると考えています。
そのようにして、協業先の企業パートナーを増やしたいと考えています。
株式会社piconの元々の課題は、生成型AIという革新的かつ価値ある技術が、ごく一部の人々にしか届いていないという状況を変えることでした。
当社は創業から8年、一貫してコンシューマー向けプロダクトを作り続けてきたからこそ、この技術を多くの人々に届けることができると考えています。
ChatGPTに限らず、様々なAI技術を活用した様々なコンセプトのプロダクトを準備中です。そのような課題にチャレンジする熱意がある優秀な方、特にエンジニア、事業開発、プロダクトマネージャーを積極的に増やしていき、今後も、事業を加速していく予定ですので、ご期待ください。
(取材日: 2023年4月: 取材/鍋島理人, サポート: 河本貴史, 大場沙里奈, 鈴木敦史)