ChatGPTと従来のAIとの違い
河本 2000年代から始まった第3次AIブームですが、最近は大規模言語モデルの活躍が目覚ましく、一気にブレークスルーが起きたように感じています。従来型のAIと、ChatGPTなど現在のAIの違いは何でしょうか。
鈴木 まず第一に異なる点は、トレーニングの方法です。大規模言語モデルは深層学習によって膨大な量のテキストデータを学習して、自然言語処理を行います。一方、ChatGPTは3段階のトレーニングにより、より人間らしい回答をするように強化学習も取り入れています。次に異なる点は、チャット型UIを採用したことで、人間がプロンプトを通じてAIに簡単に指示を出せるようになったことです。このような手軽さも、第3次AIブームを加速させた要因ではないかと思います。
河本 さまざまな手法を組み合わせることで、現在の優れたAIが登場したということですね。またプロンプトによるAIの民主化というご指摘も重要だと感じました。AIがさらに人間に近づくためには、マルチモーダルな情報への対応が欠かせませんが、その辺りはいかがでしょうか。
鈴木 はい。次世代の大規模言語モデルであるGPT-4では、テキストだけでなく画像も扱えるようになりました。今後は、音声や映像、表などさまざまな形式のデータも扱えるようになるでしょう。今後の進化を楽しみにしています。
AIの光と影
河本 AIの進化はさまざまな可能性をもたらす一方、AI活用に伴う倫理的問題や課題についての議論が白熱しています。そこでAI活用における課題について、見解をお聞かせください。
鈴木 AIが性能を高めるにつれて、メリットが増える一方で、悪用された場合や意図しない結果をもたらした場合の悪影響も大きくなっています。例えば、業務でAIを使用する際、機密情報をAIに投入してしまい、情報漏えいなどのインシデントにつながる事例も出てきています。AIは便利なツールですが、業務での利用にあたっては、ユーザーのリテラシー向上や、組織としてのルール整備といった、レスポンシブAI実現に向けた取り組みが欠かせません。
辻 私は、AIによるスパム問題について懸念しています。先進的なAIを悪用し、スパムがより人間らしく振る舞うようになることで、より巧妙で悪質なサイバー犯罪が登場する恐れがあると言われています。AIの悪用や、その被害を被るリスクが増す中で、AIの使い方には常に気を付ける必要があると感じています。
河本 やはり、どんなに優れたツールでも、使い方次第で良くも悪くもなるということですね。AIの悪用が広がると、技術そのものが否定されかねません。AI技術の発展が人類に貢献するのは間違いないので、レスポンシブAIに向けた取り組みは重要ですね。
業務におけるAI活用の実践
河本 AIの機能がますます洗練されて、さまざまなサービスや機能にAIが組み込まれつつあることが最近のトレンドです。辻さんはソフトウェア開発のプロフェッショナルですが、業務上どのようにAIを活用されていますか。
辻 はい、最近は開発でもChatGPTの活用に取り組んでいます。もちろん、業務のソースコードをそのまま投入することは機密保持の観点から許されませんが、コーディングの支援や、アイデアの検証など、さまざまな形で活用しています。例えば、ちょっとしたアイデアをChatGPTに入力すると、コードを提案してくれるだけでなく、解説とテストデータも付けてくれます。そして、そのデータを投入するとどのような結果が返ってくるかまで説明してくれます。チームでコードレビューをする際にも活用できるので、とても便利です。意図したアウトプットを出すのは難しい時もありますが、ChatGPTに適切なプロンプトを与えて、うまくコミュニケーションが取れれば、強力なチームメイトになりうると感じました。
もう一点、私は別の切り口でもAIを活用しています。副業として、あるプロダクトのプロモーション活動に携わっているのですが、製品の情報をAIに学習させて、プロモーション用の文章を生成できないかと考えました。そこで利用しているのが、DocsBot AIというChatGPTを活用した海外のSaaSサービスです。通常ChatGPT/GPT-4で使われているモデルはファインチューニングができませんが、DocsBot AIを使うことで、あたかもファインチューニングしたかのように、あらかじめ指定した情報ソースを用いて受け答えが可能なチャットBotとして振る舞ってくれます。情報ソースとして製品のWebサイトのURLやPDFファイルなどを読み込み、プロモーション用の文章の作成をリクエストすると、製品の紹介文を自動生成してくれました。このようなツールが出現したことで、開発だけでなく、プロモーションやマーケティングなど、さまざまな領域でAI活用の可能性が広がっていると実感しています。
河本 近年のAIは、性能が優れているだけでなく、汎用性の高さも特徴的ですね。AI活用の有無によって、今後、生産性に大きな差が出そうだと感じました。
ソフトバンクのサービス、AI、LINEのコラボレーション
河本 鈴木さんはAxross Recipeというサービスに携わっていると聞きます。最近ではAIとのコラボレーションが注目されていますが、具体的な取り組みについてお聞かせください。
鈴木 Axross Recipeは、AIやDXの人材を育成することを目的としたサービスで、さまざまな教育コンテンツ(レシピ)を用意しています。特に人気があるレシピが、ChatGPTにおけるプロンプトの活用事例です。プロンプトエンジニアリングはChatGPTを使いこなす上で重要なので、レシピの拡充に大変力を入れています。また経産省のDXリテラシー標準に基づく全社員向けの動画コンテンツ・チェックテストや、AI倫理ガバナンスを体系的に学習するコンテンツも提供しています。さらに今後の開発構想として、学習をサポートするコメント機能に、AIによる自動応答を取り入れることを検討しています。
AIの話題から逸れるのですが、他にもAxross Recipeでは、LINEを身近なインターフェースとして活用するためのレシピも用意しています。例えば、LINEのMessaging APIを活用した、飲食店予約Botを開発するレシピなどが挙げられます。
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Axross Recipe for Biz とは
Axross Recipe for Bizはソフトバンクグループ社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー(SoftBank InnoVenture)」で立ち上げられた、AI・データ活用を中心とするDX人材教育サービスです。
オンライン学習プラットフォーム上では、経験者の実践ノウハウや最先端の事例を教材化し提供しています。
最新のAI技術のほか、事業化立案やデータ分析といった、DX事業に役立つ講座をeラーニングや研修、ワークショップを通して学べます。
Axross Recipe:https://www.softbank.jp/biz/services/learning/axross-recipe/
河本 LINE APIはAIと相性がよいので、今後レシピの需要がますます高まりそうですね。辻さんはMessaging APIによるサービス開発に取り組んでいると聞きましたが、どのようなものでしょうか。
辻 私は、LINEのMessaging APIを使用した、法人のお客さま向けのお問い合わせ管理サービスを開発しています。具体的には、エンドユーザーからLINEで届いたメッセージを集約して、顧客対応するためのシステムです。Botによる自動応答機能も備えています。現状はAIとの連携は実現していませんが、今後ChatGPTを組み込むことで、自動応答精度の向上が期待でき、サービスの強化につながると考えています。
このサービスの基盤となるのが、同じく弊社が提供するクラウドネイティブ・アプリケーションプラットフォーム(CNAP)です。CNAPは、インフラレイヤーをパッケージングして簡単に利用できるようにすることで、お客さまが開発に注力できることを目指したサービスです。CNAPでも今後AIを活用することで、インフラサポート業務の効率化につながるのではないかと考えています。
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クラウドネイティブ・アプリケーションプラットフォーム(CNAP)とは
クラウドネイティブ・アプリケーションプラットフォーム(CNAP)は、ソフトバンクが実践するDevOpsノウハウを凝縮した環境を標準化・自動化した上でプラットフォームとして提供するサービスです。標準化された設計、自動化された構築プロセス、これらを組み込んだものを『パッケージ』として提供します。パッケージはソフトバンクが維持管理するため、利用者は最低限のコード(Low Code)でインフラを定義でき、アプリケーション開発における従来の課題から解放され、お客さまは本来注力すべき開発業務に集中できます。
CNAP:https://www.softbank.jp/biz/services/platform/msp-service/cnap/
LINEを活用したサービス開発に Infrastructure as “Low” Code を導入! CNAPによる開発効率化事例
河本 AI、CNAP、LINEに共通するのは、企業がビジネスの本質に注力できるように、アウトプットに必要な労力を最小化することですね。アイデアと新しいビジネスが直結する、明るい未来の展望が開けつつあります。中でもLINEは、ユーザーにとって身近な存在だからこそ、AIなど最新の技術やサービスを提供する架け橋としての役割を担えると確信しています。もちろんAIには注意すべき点もありますが、Axross Recipeのようなサービスでリテラシーを高めることで、よりよい使い方を目指したいですね。
(取材日: 2023年4月: 取材/鍋島理人, サポート: 河本貴史, 大場沙里奈, 鈴木敦史)