LINE API Use Case
CPaaS × LINEが拓く、次世代コミュニケーションの新境地
CPaaS × LINEが拓く、次世代コミュニケーションの新境地
株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ 高橋 克己氏
2025年2月25日
企業の顧客対応やコールセンター運用は、いまや電話やメールだけでなく、SNSやチャット、ビデオ通話といった多彩なチャネルを組み合わせる時代に突入しました。少子高齢化や人材不足の問題、働き方改革の動きも相まって、「より効率的かつ高品質な顧客接点をどう作り上げるか」が大きなテーマとなっています。その一方で、ユーザーはスマートフォンを活用し、24時間いつでも手軽に問い合わせや情報収集ができるように。企業としては、複数のチャネルをどう連携させるかに頭を悩ませるケースが増えているのではないでしょうか。
そこで近年注目を集めているのが、CPaaS(Communications Platform as a Service)という仕組みです。電話やSMSなどの通信手段をクラウドのAPIとして提供することで、企業は素早く・柔軟にコールセンターや顧客サポート体制を構築できます。さらに日本では、メッセージングアプリであるLINEとの連携によって、国内ならではの新たな可能性が広がっています。
今回のインタビューでは、KDDIウェブコミュニケーションズでCPaaSや海外のコミュニケーション技術を扱うコミュニケーションDX本部のエバンジェリスト 高橋氏をお招きし、CPaaSの具体的な活用事例やLINE連携によるシナジー、そして今後の展望について伺いました。
株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ 高橋 克己氏

株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ 高橋 克己氏

フルスタックエンジニア。趣味は料理。 2014年7月に、留守番電話が文字で届く国内初の留守電サービス「TRANSREC」をリリース。 2015年4月にSmart Communication Award 2015で「自動電話リレーサービス」が最優秀賞を受賞。 2016年2月よりエバンジェリストとして、CPaaSの魅力を広く宣伝する活動を行っている。

CPaaSとは? その背景と注目される理由

河本 高橋さんがエバンジェリストを務められている「CPaaS」という言葉は、まだ聞き慣れない方も多いと思います。どのような仕組みなのか、簡単に教えていただけますか?

高橋 CPaaSは「Communications Platform as a Service」の略称で、電話やSMS、ビデオ通話、チャットといった通信機能をクラウドのAPIとして提供するサービスを指します。企業が自前で電話回線や複雑なシステムを構築する必要がなく、必要な機能を“部品”として利用できるのが大きな特徴ですね。

具体的には「電話を自動で受けて、内容をテキスト化してSlackに送る」ような仕組みも、CPaaSのAPIを呼び出すだけで短期間に実装できるわけです。これまではPBX(電話交換機)や専用回線を用意して多額の費用をかけていた部分を、クラウドベースで低コストに始められるのは非常に魅力的だと思います。

河本 なるほど。以前は電話のシステムを作るだけでも大変というイメージがありましたが、CPaaSならハードルが下がりそうですね。そもそも海外ではどれくらい普及しているものなんでしょうか?

高橋 海外ではすでに大きな市場が形成されていて、年平均30%以上の成長を続けていると言われています。アメリカやアジア太平洋地域を中心に、スタートアップから大企業までさまざまな規模の会社が使っています。理由としては、スマートフォンを活用した顧客接点が増える中で、「電話とSNS、メール、チャットを一元管理したい」というニーズが高まっているから。
CPaaSは“通信のAPI化”によって、それをスムーズに実現しているわけです。

VonageとKDDIウェブコミュニケーションズの役割

河本 高橋さんはそのCPaaSを日本で広めるために活動されていると思いますが、具体的にはどのようなサービスを扱っているのでしょうか?

高橋 私の所属するコミュニケーションDX本部では、海外で実績のあるプラットフォームを中心に国内展開をしていまして、その一つが「Vonage」というアメリカ発のCPaaSサービスですね。Vonageは2001年に設立され、当初は音声通話のAPI提供からスタートしましたが、今ではビデオ通話やソーシャルメディア連携、ライブコマース機能なども扱っています。現在はEricssonのグループ企業となり、世界中の通信事業者とパートナーシップを結んでいます。

KDDIウェブコミュニケーションズがそのVonageの日本向けリセールパートナーとして販売やサポートを行い、国内企業が導入しやすい形を整えているというのが、大まかな役割分担ですね。

河本 Vonageは海外での実績が豊富とのことですが、日本での導入事例やメリットはどのようにお考えですか?

高橋 海外だとコールセンターやEC、社内コミュニケーションツールなど幅広い分野で使われていますが、日本でもそれは同様に活かせるはずです。例えばコールセンターをクラウド上で構築したり、電話やビデオ通話の録音・文字起こしを自動化したり、SMSや認証サービス(2要素認証)を手早く導入したりと、ニーズはかなりあります。特に日本は電話対応を重視する企業が多いので、自前で大がかりな設備投資をしなくても先端技術を取り入れられるのは、かなり大きなメリットだと思います。

LINEとの連携が生み出すシナジー

河本 ここからはLINEとの連携について詳しく伺いたいです。日本のユーザーはプライベートだけでなく、企業公式アカウントなども含めて、LINEを欠かせないツールとして使っていますよね。CPaaSとLINEが連携すると、具体的にどんなことが可能になるのでしょうか?

高橋 いちばん分かりやすい例は、「LINEの画面からワンタップでコールセンターにつなぐ」というものです。ユーザーは電話番号をいちいち入力しなくても、LINE上のボタンを押すだけでコールセンターに発信できる。裏側ではCPaaSが電話APIを管理し、待ち呼(キュー)やオペレーター振り分け、録音などの機能を提供します。

また、LINE通知メッセージも注目です。多くの企業が「顧客の電話番号は知っているけれど、LINEのユーザーIDは分からない」という状況があるかと思います。CPaaSの仕組みを使い、電話番号のままでもLINE通知メッセージを送ることができれば、SMSよりも安価なコストでリッチな情報を届けることができるようになるかもしれません。

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河本 LINE上で気軽に発信し、コールセンター側も特別な改修をせずに対応できるわけですね。国際電話のコスト削減などにも効果がありそうです。

高橋 そうですね。海外から日本のコールセンターに電話をする場合、従来は国際通話料金が高額になりがちですが、LINEを使えばデータ通信になるので費用を抑えられます。また、ユーザーがLINEアプリを使い慣れているので、サポートへのハードルが下がり、「とりあえず聞いてみよう」という行動を後押しするメリットもあるでしょう。企業側にとっては問い合わせが増えるかもしれませんが、ひとつの接点をLINEにまとめられるという利点は大きいと思います。

CPaaS × AI × LINEがもたらす未来

河本 近年AI、とりわけGenerative AIの進化がめざましいですが、電話やチャットにAIが組み合わさると、コールセンターはどのように変わっていくのでしょうか?

高橋 大きく分けて2つの方向性があると考えています。
1つ目は音声認識やテキスト化、感情分析といった機能を用い、オペレーターを支援する仕組みです。ユーザーと通話している最中に、リアルタイムでAIが内容をテキスト化してくれれば、後ほどメモやレポートを作る負担が大幅に減ります。感情分析まで踏み込めば、クレーム対応時のオペレーターサポートにも役立つでしょう。

2つ目は自動応答ボットの高度化です。一定のシナリオが決まっている問い合わせであれば、AIが最初の対応をして、複雑なケースだけ人間が引き継ぐという体制も考えられます。これがLINEやCPaaSと組み合わさると、「最初はチャットボットで案内して、途中でどうしても電話が必要な場合にはAIが通話を発信」というハイブリッドな顧客体験が実現できるはずです。

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河本 たしかに、ユーザー側としても最初の案内はチャットが良い、でも話がややこしくなったら電話で確認したいというケースは多いですね。こうしたAI活用はどんどん進んでいくのでしょうか?

高橋 日本のコールセンター業界は、いま大きな転換期を迎えていると思います。人手不足も深刻化しており、一方で問い合わせ数は増える一方という企業も多い。AI×CPaaSで自動化できる部分を増やして、オペレーターの負担を軽減する動きは確実に広がるでしょう。ただし、本当に複雑な課題や特別なおもてなしが必要な場面は、人間がしっかり対応する。それをうまく切り分けるためにも、クラウド上で柔軟に通信フローを組み替えられるCPaaSの存在は重要だと感じています。

CPaaSの今後の展望とメッセージ

河本 CPaaS自体が海外から入ってきた概念ではありますが、日本ならではの使われ方や、今後こうなっていくだろうという展望はありますか?

高橋 一番大きいのは、やはり「LINEという国内最大級のコミュニケーション基盤」とどう組み合わせるかでしょうね。欧米ではWhatsAppやMessenger、WeChatなどもありますが、日本国内においてユーザー数や浸透度が圧倒的なのはLINEです。ここに電話の世界を溶け込ませることで、「ユーザーはLINEを開くだけで何でもできる」状態へ、ぐっと近づいていくと予想しています。
また、国内企業の中には、レガシーな電話システムを長く使っているケースが多く、「せっかくクラウド化したいのにオンプレを全部やめられない」という悩みを抱えている方も少なくありません。CPaaSなら段階的にクラウド移行が行えるので、徐々にオンプレを減らしつつ、AIやチャットボットなど新しい技術を取り込みやすくなるはずです。
そうして少しずつDXを進めていく中で、人手不足やコスト増、ユーザーとのコミュニケーション課題などを解決する糸口が見えてくるのではないでしょうか。

河本 とても興味深いお話でした。最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

高橋 ありがとうございます。「コミュニケーションのDXを進める」と一言でいっても、現場の課題や組織の状況によって取り組み方はさまざまです。ただ、電話やチャットをはじめとする多彩なチャネルをAPI化し、クラウドで柔軟に扱う技術が進んでいるのは間違いありませんし、LINEとの連携によってユーザーが使いやすいフロントを整えることも可能です。

国内のコールセンターや店舗運営者の方々は、これからCPaaS+LINE+AIのような組み合わせによって、大きな飛躍のチャンスを得られるはずです。私たちもサービスの提供だけでなく、具体的な導入事例や運用ノウハウを共有しながら、企業や組織のDXを一緒に支援していきたいと思っています。ぜひお気軽にご相談ください。

(取材日: 2024年12月2日: 取材/大場 沙里奈)

株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ ロゴ
企業名株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ
URLhttps://kwcplus.kddi-web.com/

会社の紹介情報

1997年より、レンタルサーバー事業「CPI」提供開始。2009年には、ホームページ作成サービス「ジンドゥー」の提供を開始。2022年12月より、シェアオフィスの機能性とラウンジの居心地のよさを併せ持つ空間「SHARE LOUNGE 外苑前」、コミュニケーションを生み出すイベントスペース「FLAT BASE」をオープン。2024年2月よりコミュニケーションプラットフォームサービス「Vonage」を提供開始。 2022年7月1日からDXを専業とした持株会社「KDDI Digital Divergence Holdings」の傘下に移管。クラウド、アジャイルをはじめDX推進に必須となるケイパビリティを持つ5つの事業会社が連携することで、DX事業の拡大を目指しています。

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