5G X LAB OSAKAへデモを出展
5G X LAB OSAKAへデモを出展「5G X LAB OSAKA」は、5Gを活用した製品サービスの開発支援などを目的にソフトバンク、大阪市、大阪産業局、iRooBO Network Forumが官⺠連携で開設した施設です。施設は「展示・体験ルーム」と「検証ラボ」の2つのエリアで構成され、5Gを活用した製品やサービスのデモンストレーションを体験できるほか、無償で検証も行える環境が整っています。「展示・ 体験ルーム」では、約240平方メートルのスペースに約30点※2024年8月時点の最先端製品やサービスが展示され、常に最新技術を体感できるよう、展示内容は定期的に更新されます。 これにより、利用者に新たなビジネスの発想を提供する場となっています(完全予約制)。 さらに、2024年8月からは、stu株式会社が開発したLINEミニアプリとメタバース関連のデモも、この施設で展示されています。最新の技術を直接ご体験いただける機会となっていますので、ぜひお立ち寄りください。
テクノロジーとエンタメの融合 stuが目指すメタバースの世界
大場 初めに、stuの沿革についてお聞かせください。またどのような事業を手掛けているのでしょうか。
高尾 stuは、2017年に創業し、エンターテインメントを中心に複数の事業を展開しています。現在、7年目に入り、69名の社員を擁する企業に成長しています。
主な事業としては、まず我々が所属するテクノロジー事業があります。ここでは、エンタメを支える先端技術の開発をしています。2つ目はアートとデザイン事業で、デジタルインスタレーションなど、アートを中心とした質感豊かなコンテンツの開発を行っています。3つ目がプロダクション事業で、独自のIPを創出することを目標に、ドラマ原作の開発やミュージックビデオの制作を行うなど、アーティストとの共同作業が多い部門です。最後に、最近設立したデジタルマーケティング事業部では、日本のエンタメ業界においても、世界と肩を並べる、効果的なデジタルマーケティングの展開を目指しています。
stuとしては、各事業部がそれぞれでプロダクトやIPを創出し、それらが最終的に融合することで、日本から世界に向けてグローバルスタンダードなコンテンツを発信していくことを目標に活動しています。
大場 stuはメタバース事業も手掛けていますが、どのような狙いがあって取り組んでいるのでしょうか。
高尾 観光産業や音楽・IP業界などの様々なビジネスで、独自の世界観のユーザー体験を提供することで、ファン同士のコミュニケーションを促進したいという強いニーズがあります。
世界観をベースにしたビジネスといえば、多くの人がディズニーパークを思い浮かべるのではないでしょうか。ディズニーパークでは、非常に緻密に作り込まれた世界観を体験できる環境が提供されています。しかしディズニーパークのような施設を作るには莫大な資金が必要です。
このような、「世界観のあるコミュニティ体験を創りたい」というニーズに応えられるのがメタバースという技術です。メタバースでは、事業コンセプトに沿った3D空間を作り、独自の世界観を構築できます。またユーザーも、時間・場所を問わず、様々な媒体からメタバースにアクセスすることができます。
実際に、2024年秋に開催された「『進撃の巨人』ワールドワイド・アフターパーティー」では、アニメ「進撃の巨人」の世界観を大切にしたオンライン空間を展開し、我々がプラットフォーム開発とCG制作で貢献させていただきました。
VRヘッドセットの限界とWebメタバースのメリット
大場 メタバースは、VRデバイス、PC、スマホといった様々な媒体で体験することができます。また大規模施設、小規模店舗、自宅など様々な環境に対応しています。それぞれの媒体における、メリットとデメリットを教えてください。
高尾 私が人生で感銘を受けたVRイベントとしては、VRライブコンサート「LYNK-POP : THE 1st VR CONCERT aespa」があります。こちらのイベントでは、全席にVRヘッドセットが用意されており、来場者はその場でVRヘッドセットを装着してバーチャルライブを体験することができます。そこは本当に素晴らしい空間で、先進的な体験ができるだけでなく、体験が終わった後に現実の場で感動を共有できたり、アーティストの展示を見られるエリアも提供されていました。
一方、弊社が目指しているのは、そのような高度な体験価値を提供しながら、世界で同時に数十万人が参加するような、大規模なメタバースイベントの開催です。その実現のためには、ユーザー個人の環境にどう対応するかが重要になります。
空間への没入というニーズを満たすうえで最適なのは、店舗と同じように、家庭にVRヘッドセットが普及することですが、現時点では、誰もが持っているPCやスマホを活用できれば、メタバースへの参加のハードルを大幅に下げることができます。
大場 スマホによるメタバースでは、多くの人がネイティブアプリを思い浮かべるのではないかと思います。stuがWebブラウザによるメタバースを実現した背景には、どのような課題があったのでしょうか。
高尾 弊社も当初は、ネイティブアプリでメタバースを提供していましたが、そのインストール過程で多くのユーザーが離脱してしまうことがデータから明らかになっていました。また、クラウドレンダリング技術を用いて、サーバー上でハイクオリティな3DCGをレンダリングし、それを映像データとして送信する形でメタバースを提供していました。しかし、サーバーのコストが膨大になるので、実用化が困難でした。
これらの問題を解決するのが、WebGLを活用して、Webブラウザ上で3D空間を動かすことでした。先述の通り、2023年に実施した「『進撃の巨人』ワールドワイド・アフターパーティー」は、Webブラウザでメタバースを運営する大規模な事例としては初めての試みでしたが、ブラウザ上でもメタバースをしっかりと動かせることを確認しました。
大場 「『進撃の巨人』ワールドワイド・アフターパーティー」は、まさにWebならではの大規模イベントでしたね。集まったユーザー同士でお喋りもできますし、イベント会場で直接アイテム購入もできます。
高尾 私は音楽ライブが好きでよく参加するのですが、ライブ本編の前後で特に体験が用意されておらず、終わった後に誰とも感動を共有できないことが、まだまだ体験拡張の余地があるなと思っていました。そこで、オンライン空間でファン同士がコミュニケーションできる場所を作りたいというアイデアが、「『進撃の巨人』ワールドワイド・アフターパーティー」での私の開発ディレクション時のベースコンセプトになっています。
私自身は、このイベント本編の前後の体験を作り込むことを「キューラインの体験を創る」と呼んでいます。リアルで特に卓越していると感じるのは、やはりディズニーパークのアトラクションです。アトラクションに乗る前の待ち時間、列に並んでいる間にも物語があり、終わった後もメッセージがしっかりと心に残ります。バーチャルやリアルイベントにおけるキューラインの作り込みにも、メタバースが役に立つと考えています。
大場 前後体験を作るためには、メタバースを作り込むだけでなく、様々なコンテンツやサービスと統合することも必要になりますね。
高尾 仰るとおりです。Webメタバースのもう一つのメリットは、一般的なWeb技術で構築されているので、外部のWebサービスとの連携も容易になることです。例えば、決済機能などをUIとして自然に統合できるようになります。その点で、ネイティブアプリよりはるかに利便性が高いので、弊社としてはWebメタバースを推進する方向にシフトしつつあります。LINEミニアプリによるメタバースも、その延長線上にあります。
LINEミニアプリがさらに多くのユーザーにメタバースを届ける鍵に
大場 今回、「AfterParty メタバース」と「お土産買い忘れメタバース」をLINEミニアプリで提供するデモを開発したのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
高尾 一緒にお仕事をしている、LINEヤフーの比企 宏之さんからLINEミニアプリについてお話を伺ったのがきっかけです。Webメタバースと、LINE APIとの間に親和性があると感じたので、LINEアプリと組み合わせて、実際に動くかどうかを検証しました。その結果、スムーズに動いたので、現在はビジネスとしての立ち上げに向けて動いています。
大場 実際にLINEミニアプリでメタバースを開発してみた感想はいかがでしょうか。
高尾 Web技術をベースにしているので、どんなWebアプリも簡単にLINEミニアプリ化できるんだなと感じました。npmからパッケージをインストールするだけで開発環境が整い、コードに数行追加するだけでLINEミニアプリにできるので、とても便利でした。
大場 LINEミニアプリを使ったメタバースを顧客に見せたとき、どのような反応がありましたか?
高尾 「LINEでも動くんですね!」という反応でした。LINEアプリとメタバースという組み合わせに、意外性があったのかもしれません。お客様の視点では、専用アプリをインストールしなくても、既にみんなが使っているLINEアプリで動く点は、大きなメリットに感じるのではないかと思います。
弊社としても、LINEアプリでメタバースが動作すれば、多数の流入が見込める点に魅力を感じています。ただ、VRヘッドセットよりは没入感が少ないので、画面の中でいかに体験を設計するかという部分に、クリエイティビティーが問われるところでして、私としては日夜この部分の体験価値を向上する術を模索しています。
メタバースを形作るstuの技術
大場 これらのデモのメタバースは、どのような工程で制作したのでしょうか。
高尾 私の興味本位から、K-POPのライブ前にこういう空間があったらいいな、もう1回あの空間をオンラインで追体験したいな、というアイデアをもとに、パッとデモンストレーションのアプリを作成、弊社のCG制作チームにコンセプトを共有しながら開発を進めてまいりました。
大場 既存のメタバース制作に対して、モデルの作り方の違いやスピード感など、stuならではの優位性があれば教えてください。
高尾 弊社の強みは、Webメタバースの技術と制作スピードです。Webメタバースは3Dモデルを表示する際、リソースの制限が非常に厳しいのですが、弊社はハイクオリティなモデルをWeb上で美しく表示する技術に長けています。また、スピーディーにメタバースを制作できる体制が整っているので、一般的なプロダクションと比べて感覚的には5倍ほど速いのも特徴です。実際、「AfterPartyメタバース」も、わずか3日ほどで制作しました。
大場 「お土産買い忘れメタバース」では、実際のお店の写真を使ってデータ化したと伺いましたが、具体的にはどのように制作したのでしょうか。
神庭 通常は写真をもとに3Dデータを作成する場合は、フォトグラメトリという手法を用いますが、弊社では2023年頃から機械学習ベースの技術を活用しています。
フォトグラメトリと比べてコストパフォーマンスが良く、同じ容量ですごく綺麗な画像が出力されますし、服の質感や鏡といった今までできなかった表現も技術開発できました。ただ、それでも空間が広くなるとデータが重たくなります。LINEミニアプリでメタバースを実現するには、スマートフォンでスムーズに表示する必要があるので、弊社が独自開発したツールでデータを軽量化するといった工夫をしました。
大場 まさにstuならではの技術ということですね。
神庭 そうですね。3DデータやAIのエキスパートと、LINEミニアプリを開発できるWeb技術者が同じ会社にいるのが、弊社のユニークな点です。
メタバースビジネスとAI活用の可能性
鈴木 私はLINEによる地方創生事業に関わることが多いのですが、「お土産買い忘れメタバース」に大きな可能性を感じました。例えば、地方の有名な観光地をメタバースで再現して、事前に行先や宿泊先などの雰囲気を体験できると、ユーザーの気持ちが盛り上がって、より旅行本編が楽しくなるのではないかと思います。また不動産のように、実際に内見して空間を体験する必要があるビジネスでも、メタバースを活用できるかもしれませんね。
高尾 はい。弊社として今取り組んでいるのが、現実世界のデータ収集です。例えば、弊社は、地方自治体と地域の重要文化財のデータキャプチャに取り組んでいます。こうした地域の名所に関するデータを蓄積することで、将来的には、鈴木さんが仰ったようなアイディアを実現できるかもしれません。また、これらのデータを集めることは、弊社がAIによるブレイクスルーを起こすための下準備でもあります。
大場 現段階で、メタバースにおける具体的なAI活用の取り組みはありますか?
高尾 例えば、「AfterPartyメタバース」では、メタバース内のNPC(ノンプレイヤーキャラクター)にLLMを活用しています。これまではプログラムで決められた応答しかできませんでしたが、裏側でLLMを使うことで、そのNPCのキャラクター性に合わせた自然な返答ができるようになりました。例えば、あるキャラクターが少し人見知りな性格だと、挨拶したら、たどたどしい返事が返ってくるといった具合です。
鈴木 観光へのメタバース活用だと、観光地の名所紹介や、危険な場所への注意喚起をAIのNPCで行うことで、体験の向上や事故防止に繋がるかもしれませんね。LINEヤフーは、AI活用や地方自治体との取り組みに力を入れているので、メタバースでご一緒できることがあれば、ぜひご相談させてください。
メタバースでコンテンツビジネスや地方創生を加速する
大場 最後に、stuの今後の展望やビジョンを教えていただけますか。
高尾 エンタメの分野には、今後も積極的にアプローチしていくつもりです。例えば、ミュージックビデオやテレビ番組に、視聴者が直接参加できるような企画を作るのも面白いと思いますし、メタバースの活用の幅は非常に広いと感じています。
さらに、これまでメタバースを活用してこなかった業界にも、積極的にアプローチしたいと考えています。先ほど触れたように、地方自治体との連携では、実際に、京都府亀岡市と協力してメタバースを制作した経験があります。その際、現在の街並みを再現するのではなく、昔の街を忠実に再現することで、タイムスリップのような感覚を実現しました。このような体験は、メタバースだからこそ実現できたと思っています。
神庭 AIの分野では、stuとして、AIを活用した既存技術の活用や新技術の開発を通して、従来のエンタメ手法を刷新することを目指します。ChatGPTのように、AIには仕事や生活のスタイルそのものを大きく変える力があります。クリエイティブやエンタメの分野におけるAIにも、同じ力があると信じています。
大場 stuが目指す世界観を実現するために、弊社としても、メタバースにおけるLINE活用を今後も支援したいと思います。本日はありがとうございました。
(取材日: 2024年8月: 取材/大場沙里奈, 鈴木敦史, 鍋島理人)