LINE API Use Case
LINE API Use Case
【前編】LINEのユーザーIDを軸に既存の顧客基盤と連携し、グループを超えた店舗ビジネスの変革へ!CXとEXを実現する東急グループのLINE活用とは?
【前編】LINEのユーザーIDを軸に既存の顧客基盤と連携し、グループを超えた店舗ビジネスの変革へ!CXとEXを実現する東急グループのLINE活用とは?
東急株式会社 井上隆二氏 / 東急株式会社 吉井光生氏 / LINEヤフー株式会社 中村優輝
2023年09月04日
東急グループでは、顧客体験の変革(CX)と従業員体験の変革(EX)を掲げ、LINEを活用したサービスやデータ活用を推進しています。特に、東急グループ店舗のポイント会員証をLINEで提示できるTOKYU POINT CARD on LINEが、大きな注目を集めています。そこで、東急グループにおけるLINE活用の取り組みについて、東急株式会社の吉井 光生氏と井上 隆二氏にお話を伺いました。
東急株式会社 デジタルプラットフォーム マーケティンググループ 課長 井上隆二氏

東急株式会社 デジタルプラットフォーム マーケティンググループ 課長 井上隆二氏

リクルート、ソフトバンク等で様々なメディアやWebサービス立ち上げを経験。2018年より現部署にて東急グループのDX、デジタルマーケティングを支援。
LINE活用を含めた顧客コミュニケーションを担当。グループ向けプロダクトの開発、運用も担う。

東急株式会社 デジタルプラットフォーム マーケティンググループ 課長 吉井光生氏

東急株式会社 デジタルプラットフォーム マーケティンググループ 課長 吉井光生氏

東急エージェンシー2001年入社。営業担当・媒体担当を経て、約10年間デジタルマーケティング業務に従事。2019年から現職(出向中)。
LINEや自社アプリなどのグループ顧客接点のコミュニケーション戦略を担当。

LINEヤフー株式会社 マーケティングソリューションカンパニービジネスPF統括本部ビジネスソリューション開発本部ソリューションマーケティング部TechEvaチーム 他 中村優輝

LINEヤフー株式会社 マーケティングソリューションカンパニービジネスPF統括本部ビジネスソリューション開発本部ソリューションマーケティング部TechEvaチーム 他 中村優輝

2018年クラスメソッド株式会社へ入社。ソフトウェアエンジニア・プロダクトマネージャーなど幅広な業務に従事し、2022年から現職。
LINE APIの啓蒙をミッションに、ソリューションアーキテクトとしてLINE APIを活用した企業のDX支援・ユースケースやサービス事例を外部発信するメディア「LINE API Use Case」を運営。

ネイティブアプリのハードルを克服 友だち集めから始まったLINE活用

中村 マーケティンググループは、東急ストアをはじめ、東急グループ全体でのデジタル施策を推進していると聞きます。具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。

吉井 TOKYU POINT会員基盤の運用を軸に、メルマガやLINE公式アカウントなどのソリューション提供を通じて、東急グループ各社のデジタルマーケティングを支援しています。各社からの要望を取りまとめるハブとしての役割を担いつつ、我々からの企画提案や、施策を実施するためのシステム面での検証も行っています。

TOKYU POINTメルマガも販促ツールとして重要な位置付けにありますが、そこにLINEが加わることで、さらに効果的な情報提供や販促を実現できるようになりました。我々は現在、東急グループ全体で約30個のLINE公式アカウントを運用しており、特に小売の東急ストア、東急百貨店、TMDの3社については重点的にサポートしています。

中村 デジタルマーケティングツールとしてのLINEの重要性が高まっているとのことですが、東急グループでのLINE活用はどのような流れで始まったのでしょうか。

吉井 我々のチームは、2019年に発足したのですが、ちょうど日本でQRコード決済が普及し始めたタイミングでもありました。その時にLINE Payの導入支援を行なったのが、LINE活用の最初のきっかけとなりました。

実は東急ストアでは、独自のネイティブアプリを提供していました。しかし会員獲得に大きな労力やコストが掛かること、またパーソナライズされた会員サービスもなかったので、有効活用が難しいという課題を抱えていました。また東急グループのメルマガやSNSなども、会員数を増やすために様々な試行錯誤をしていました。 LINE Payで決済時に友だち追加を促すことができ(※)多くのお客様がLINE公式アカウントと友だちになってくれるので、これらの課題を一気に解決できるのではないかと考えました。
https://pay.line.me/portal/jp/business/support/column/280

中村 ネイティブアプリと比較すると、会員獲得のコストが低く、お客様が積極的に会員になってくれるという点は、確かにLINEの強みの一つですね。友だち集めを始めた時点では、どのようなマーケティングプランを構想していたのでしょうか。

吉井 LINEの友だち集めを始めた当初は、最初から具体的な施策を決めるのではなく、まずは集めてから活用方法を決めるという方針で運用していました。しかし、我々にはデジタル接点でもう一つの課題がありました。TOKYU POINT会員基盤にも、40万人のメルマガ会員がいます。しかしメールなので、開封率はそれほど高くありません。また、東急グループ全体の共有ツールなので、ある程度はセグメントを区切れるものの、例えば店舗ごとに異なる情報を配信するといったことはできません。

そこで次のステップとして開発したのが、LINEのユーザーIDとTOKYU POINT会員のIDを連携する機能です。TOKYU POINT側にはお客様の購買履歴が記録されているので、ID連携によって、細やかなセグメント配信や、特定の条件を満たすお客様へのキャンペーンといった、LINEによるOne to Oneマーケティングを実現できるようになります。現在、LINEとTOKYU POINTのIDを連携しているお客様は、30万人にのぼります。

LINEヤフー株式会社 中村優輝

LINEヤフー株式会社 中村優輝

TOKYU POINT CARD on LINEが実現するCXとEX

中村 LINE活用といえば、2022年5月にリリースされたTOKYU POINT CARD on LINEが大きな話題になっていますが、DXの観点でも重要な施策だと感じました。TOKYU POINT CARD on LINEはどのような狙いで開発されたのでしょうか。

吉井 TOKYU POINTには2つの課題がありました。1つ目は、TOKYU POINTカードのデジタル対応です。スマートフォンでも会員証を提示できるサービスが主流になる中で、当時のTOKYU POINT CARDは板カードのみでした。2つ目は、レジオペレーションの改善です。東急ストアは、楽天ポイントカードにも対応していたのですが、TOKYU POINTと楽天ポイントを同時に貯めようとすると、それぞれのポイントカードを2回提示する必要がありました。そのため、店舗と時間帯によっては、レジの混雑を招くことがありました。

これらの課題を一挙に解決するのが、TOKYU POINT CARD on LINEです。LINEのユーザーIDと連携することで、TOKYU POINT CARDのバーコードをスマートフォンで提示できます。さらに、楽天ポイントのIDも紐付けることができるので、レジでバーコードを一回読み込めば、TOKYU POINTへと楽天ポイントを同時に貯めることができます。お客様のストレスや待ち時間を解消するとともに、従業員のレジオペレーションの負担を減らし、接客時間を短縮できました。

中村 お客様や従業員からの、TOKYU POINT CARD on LINEについての反応はいかがでしょうか。

吉井 東急ストアのお客様相談センターには、お客様から「便利になった」といった声が届いているそうです。我々としては、大変好評を頂いていると考えています。また従業員への影響ですが、東急ストアのレジオペレーションの時間を6〜7秒短縮できました。一人あたりの接客時間をいかに短くするかは、お客様のストレスを減らす面でも、従業員体験を向上する面でも、経営課題になるほど重要なテーマです。 TOKYU POINT CARD on LINEによる改善効果は、東急ストアの経営層も高く評価しています。

井上 TOKYU POINT CARD on LINEのリリース前に、東急ストアの研修センターで実機によるテストを行っていました。研修中の従業員が様子を見に来たので、TOKYU POINT CARD on LINEを試してもらったのですが、「これは便利ね」と大好評でした。現場のスタッフにとって分かりにくいサービスはなかなか受け入れられないので、従業員体験の面でも、TOKYU POINT CARD on LINEはうまく行ったと思っています。

中村 それは素晴らしいですね。DXについての議論では、業務のデジタル化に焦点が当たりがちです。しかし、DXとは本来、デジタルによるビジネス全体の変革を指すものです。LINEは、顧客とつながり続ける仕組みと、それを支える業務の変革を実行することがDXだと解釈しています。言い換えれば、DXは、CXとEXがセットでなければなりません。その意味で、お客様の手間を減らし、従業員の業務を改善するTOKYU POINT CARD on LINEは、まさにDXを体現するモデルケースだと考えています。

LINEが目指すDXとは
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LINEデータの活用で現場活性化 One to Oneの攻めのアプローチ

中村 東急グループでは、LINEによるサービス提供を通じて蓄積されたデータを、どのように活用しているのでしょうか。

吉井 LINEデータの活用で重要となるのが、LINE公式アカウントなど複数のチャネルを、一組織に紐づけて管理できるプロバイダーという仕組みです。東急株式会社で一つのプロバイダーを持ち、東急ストア、東急百貨店、TMDなどグループ各社のLINE公式アカウントを配下に設けています。

それまでは、各社がそれぞれのお客様のデータを溜め込みがちで、活用も限定的でした。グループを横断した施策を推進する仕組みがTOKYU POINTですが、各社のサービスを全て網羅しているわけでなく、一部のデータが断片化することもありました。そこで、各社の持つデータを繋ぐ仕組みとして、LINEのプロバイダーを活用しています。プロバイダーが共通であれば、それぞれのLINE公式アカウントと友だちになっているお客様を、同一のユーザーだと認識できます。こうした仕組みがあることで、グループを横断した分析や施策を進めやすくなりました。

東急株式会社 吉井光生氏と井上隆二氏

東急株式会社 吉井光生氏と井上隆二氏

今年の3月には、一部の東急ストアと駅ナカ商業施設etomoで、合同プロモーションを実施しました。etomoのLINE公式アカウントと友だちになり、隣接する東急ストアで一定額以上買い物をすると、キャンペーンに参加できるという内容です。これまで実施しづらかった、グループ会社同士での合同施策も手軽に実施できるようになりました。

中村 プロバイダーを通して、グループ各社が持つお客様情報をうまく連携しながら、グループ各社のLINE公式アカウントの成長や、リアルな店舗でのお客様の行動につなげているということですね。LINEの仕組みを上手に活用されていると思います。

井上 LINEのデータは、東急ストアの現場でも活用されています。実は、LINEのユーザーIDと紐づいたTOKYU POINT会員の売上データは、自店舗のみであれば、東急ストアの店長も見れるようになっていて、前々日までのデータが常にアップデートされています。そこで各店舗は、それらのデータを、自店のデータ分析と施策に活用しています。例えば、その店舗限定の特売を企画して、LINEでお客様にお伝えし、効果測定を行うことができます。LINEという武器を手にしたことで、それぞれの店舗が、自ら企画して自ら施策を実施するという攻めのアプローチが可能になったのです。

吉井 ある店舗の事例ですが、朝穫れたお魚を、その日の夕方に東急ストアで特売することになり、その店舗のお客様にLINEのメッセージでお知らせしたところ、LINE経由でたくさんのお客様が来店したそうです。店長は、紙のチラシでは考えられないほどの効果だと言っていました。LINEにより、個別の店舗ごとにお客様にマッチしたメッセージを送ることができ、とてもアクティブな反応が返ってくるため、店舗の現場のモチベーションも高まっています。

中村 リアルタイム性と、シズル感があるコンテンツが素晴らしいです。正しいタイミングで正しい人に届けることができるからこそ実現した施策ですね。

吉井 我々は当初、LINEのメッセージ配信には、チラシのデジタル化によるコスト削減という側面もあると考えていました。実際、グループ企業からはそのような評価もあります。しかし東急ストアでは、LINEを単なるチラシの置き換えではなく、お客様にOne to Oneでアプローチできる、これまでにない強力なツールだと考えているそうです。我々も改めてLINEのメリットを実感しました。

(取材日: 2023年6月: 取材/鍋島 理人, サポート/中村優輝, 大場沙里奈, 鈴木敦史)

東急株式会社
企業名東急株式会社
URLhttps://www.tokyu.co.jp/index.html

会社の紹介情報

東急グループは交通事業、不動産事業、生活サービス事業、ホテル・リゾート事業を、232社5法人(2020年3月末現在)で展開しています。東急株式会社はその中核企業として、鉄道事業を基盤とした「まちづくり」を事業の根幹に置きつつ長年にわたって、東急沿線にお住いの皆さまの日々の生活に密着した事業を進めています。