TOKYU POINT CARD on LINEを支えるサーバレス技術
中村 TOKYU POINT CARD on LINEのサービスや、データ活用の仕組みは、どのようなテクノロジーを使って実現しているのでしょうか。
井上 TOKYU POINT CARD on LINE含むLINEのすべてのシステムは、データ管理からコンテンツ管理まで、AWSによるサーバレス構成を採用しています。考慮したのは、キャンペーン実施時などにたくさんのお客様がアクセスすることで発生するスパイクへの対処です。特に、我々は東急ストアだけでも現在40万人以上のLINEの友だちを擁しているため、アクセスが集中しても耐えられるシステムを目指す必要がありました。そこで、開発会社のクラスメソッドと検討して、AWS LambdaやDynamoDBといったサーバレスを活用することで、需要に応じて柔軟にリソースを伸縮できるシステムを実現しました。
また、今後東急グループ全体でさらにLINE活用が進むことを想定して、DynamoDBの1テーブルでユーザーIDを集中管理しています。例えばお客様が、ご利用の各東急グループ施設のLINE公式アカウントを友だち登録し、お気に入り店舗登録やTOKYU POINT会員連携することで、1つのLINEのユーザーIDにそれらの情報が全て紐づき、店舗や企業を横断した分析や、購買履歴と結びついたセグメント配信が実施しやすくなります。そこに蓄積された情報は、我々にとっては宝物です。
中村 データベースが肝ということですね。ちなみに、お客様の購買履歴や行動履歴など、LINEサービスにおけるその他の関連情報も統合管理する仕組みはありますか。
井上 TOKYU POINTの会員情報や購買履歴は、別に専用のデータベースがあり、ポイント番号でLINE側の情報と連携することができますが、全体としてのデータ統合は行っていません。ただし、分析用のデータウェアハウスには、マーケティングループ内の専門チームが分析作業やセグメント抽出などの作業を実施できるように、TOKYU POINT側の情報とLINE側の情報をまとめて投入しています。
LINE導入による成果と変化 データドリブンなLINE活用で売上を増やす
中村 LINE活用を進めていく中で、事業への影響や、売上への貢献など、具体的な成果にはどのようなものがありますか。
吉井 分析の結果、LINEで繋がったお客様の来店回数が増えていることが明らかになりました。元々、TOKYU POINTのIDとLINEのユーザーIDを連携している30万人のお客様は、TOKYU POINT会員の中でも、年間のお買上げ金額が多いことが判っていました。次のステップとして、お客様がLINE連携したことで、どのような変化が生じたのかを計測しました。すると、一回あたりの決済単価は変わらないものの、来店回数が増えていたのです。単価が変わらなくても、来店頻度が増えれば、当然売上が増えます。このように売上を作る基盤としても、LINEには大きな価値があると感じています。
中村 LINEのユーザーIDを連携しているお客様に、お気に入りの店舗の、本当に必要な情報だけを届けることができるからこそ、来店頻度の増加に繋がるということですね。
吉井 もう一つのメリットは、お客様への販促だけでなく、来店しないお客様にも情報を伝えられることです。実際、コロナ禍の際は、LINEのメッセージでそれぞれの店舗の営業時間や混雑状況を伝えることで、お客様が不満を感じるリスクを下げることができました。
井上 LINE活用が始まって3年になりますが、お客様の変化に加えて、事業側の意識も大きく変わりつつあります。施策に対して売上がどれくらい上がったか、具体的な数字を意識した会話が増えてきたと感じます。
吉井 そうですね。特に東急ストアの店長たちは、LINEのメッセージ配信の結果を常に気にしていて、配信による売上の速報値を早く出してほしいという声も上がるようになりました。例えば、東急ストアでは月に200本のLINEのメッセージを配信していますが、そのうちの7割は、それぞれの店舗のお客様に向けたセグメント配信です。それらは開封率も含めて、毎回厳しくチェックされています。東急ストアの例では、開封率が60%に満たないと、開封率が低いと見なされ、検証と内容の改善を行っています。現場の裁量でメッセージを送れるようになったことで、シビアにデータを見ながら改善するサイクルが定着しつつあります。
中村 お話を聞いていて、運用レベルが非常に高いと感じました。購買情報なども含めて、解像度が高いデータを元に配信を続けることで、改善のサイクルをスムーズに進めることができるのですね。
事業を支えるシステムとしてのLINEを目指して
中村 最後の質問になりますが、東急グループにおける、今後のLINE活用プロジェクトの展望や課題についてお聞かせください。
吉井 直近では、現状の形に留まらず、ますます便利な機能を追加して参ります。
一方、マーケティンググループとしては、昨年と比べて1店舗あたりの配信が増え、新しい要望が次々と寄せられるため、LINE運用の効率化が課題になっています。一部ではマーケティングオートメーションによる自動化を進めていますが、スーパーマーケットの業務は臨機応変なので、ルールを決めることが難しい側面もあります。現状は、手作業によるセグメント作成の工数が多いので、効率化する方法を模索しています。
井上 配信の増加により、運用側の負担は増えますが、確実に売上が増える施策は絶対にやるべきです。今後はその運用コスト削減や時間短縮などに取り組みながらも、事業側の要望をしっかりとシステムとして実現したいと思っています。今後も、LINE基盤と既存の顧客基盤の組み合わせを推進しながら、東急グループが目指すCX・EXの向上と、東急沿線のお客様のライフタイムバリューの向上を目指します。
中村 LINEヤフーとしてお手伝いできることや、機能改善の要望があれば、ぜひお聞かせください。
井上 機能追加だけでなく、日々の運用の改善に繋がるアップデートがあると嬉しいです。先に述べた通り、外部データと連携して、セグメント配信を作成するのにかなり工数がかかっているのが現状です。セグメント配信がしやすいように、LINE公式アカウントの管理画面をより使いやすくしてほしいです。
また、LINEミニアプリのショートカットを、LINEのホーム画面だけでなく、スマートフォンのホーム画面に直接置けないかと思っています。現状では、お客様がTOKYU POINT CARD on LINEミニアプリを開くのに、一度LINEを開く必要があります。そのステップを省略することで、さらにレジオペレーションを効率化できるからです。
吉井 東急グループには200社以上のグループ企業があり、中には1つの会社で複数のLINE公式アカウントを持つ場合もあります。一方、プロバイダーあたりのチャネル数は100個までですが、既に我々のプロバイダーには50〜60のチャネル数があり、チャネル数の上限が近づいています。チャネル数の制限がなくなれば、グループ各社へのLINE活用をさらに広げられるので、ぜひご検討ください。
中村 貴重なフィードバックをありがとうございます。我々LINEとしても、今後も共同で取り組みながら、東急グループのLINE活用を最大限支援いたします。引き続きよろしくお願いいたします。
(取材日: 2023年6月: 取材/鍋島 理人, サポート/中村優輝, 大場沙里奈, 鈴木敦史)