今回は、株式会社HIKKY COOの喜田龍一氏とLINEヤフー株式会社の比企宏之氏に、LINEミニアプリとメタバースの未来についてお話を伺いました。聞き手は株式会社HIKKYの草間小鳥子氏が務めます。
株式会社HIKKY 喜田 龍一氏
株式会社HIKKY COO。京都大学理学部大学院卒。大学時代の専門は量子化学・統計力学。イラストレーター“黒銀”としても様々なアニメ、ゲームタイトルにキャラクター・メカニックデザインなどで関わる。2018年から株式会社HIKKYにジョイン。クリエイティブセンスとロジカルシンキングを両立し、COOとして事業、サービスなどを統括する。
LINEヤフー株式会社 比企宏之
LINE PFのAPIのエバンジェリズム活動やLINE API Use Caseサイトの企画を行いながら、APIの先進事例を作るためにお客様のプロジェクトのフォローや他PFとの連携も含めたLINE APIのエコシステム作りを担当。最近はMaaSや小売DXでの日本マイクロソフト様との共同推進プロジェクト全体の企画立案を行いながらプロジェクトの各案件のUX・技術フォローを行いながら、副業として様々な企業様のオフラインDXの支援も行う。
Webブラウザメタバースで、リッチな相互コミュニケーションを実現
草間 「Vket Cloud」のサービス内容を教えてください。
喜田 「Vket Cloud」は、Webブラウザやスマホでアクセス可能なメタバースを制作できる開発サービスです。バーチャル店舗やメタバースのイベント会場などを自由に作ることができるため、来場者と直接アバターを介して会話しながら、商品のストーリーなど、文字だけでは伝わらない部分も伝えていけるといったメリットがありますね。
草間 なぜメタバースの開発サービスを提供することにしたのですか?
喜田 当社は元々、複数の事業を展開していました。そのうちの一つである、メタバース上の展示即売イベント「バーチャルマーケット」を企画運営していくなかで、新規来場者を呼び込みづらいといった課題を解消するために開発を始めたのが、「Vket Cloud」です。というのも、バーチャルマーケットは「VRChat」というソーシャルVRプラットフォーム上で開催しており、プラットフォームのユーザーの伸びに従って来場者は増えてきたものの、メタバースのことをまったく知らない新規ユーザーへもすそ野を広げていくためには、メタバース参入の敷居を下げる必要があった。ユーザーが手軽にメタバースを楽しむための基盤として、専門的なツールや知見が必要ないVket Cloudを開発しました。
草間 Vket Cloudの主な特長を教えてください。
喜田 大きく二つあります。一つ目は、メタバース全体の価値であるコミュニティ内でリッチなコミュニケーション体験を、ブラウザでのアクセスを活かしてXやLINEで繋がっている自分のコミュニティに直接届けることができるという点です。特定のメタバースプラットフォームの中のユーザーにアプローチするのではなく、事業者やクリエイターが自分のコミュニティとしてひとつのメタバースを作り、その中でイベントを実施するなどして、自分の顧客やファンとコミュニケーションをとっていける仕組みです。
もう一つは、Webブラウザやスマホからインタラクティブに遊べるゲームを作成できるというところ。ゲーム開発のためのツールは多々ありますが、Vket CloudはWebブラウザでメタバースを動かすことに特化したゲームエンジンです。
「好き」で繋がるクローズドコミュニティが、ユーザーの行動を変える
草間 メタバースのコミュニティやゲームがLINEと連携することで、どのような価値が生まれるのですか?
喜田 メタバースのコミュニティって、少人数でも濃い体験ができるんです。例えば、動画配信サイトでゲーム配信をすると、視聴者数が重要になりますよね。でも、メタバースのコミュニティ内でゲーム配信をすると、参加者とアバターを通じて直接コミュニケーションが取れるので、少人数でも数倍の体験価値を感じることができる。これはLINEの大きな特徴である、少人数でのクローズドなトークルームでのコミュニケーションの価値をさらに向上する可能性があると考えています。また、リッチなゲームも作ることができるので、LINE公式アカウントでゲームを提供するようなことも可能です。これによって顧客のエンゲージメントを高めるような施策に繋げられるのではないかと思います。
比企 そうですね。最近、「コミュニティ・ファン・マーケティング」という考え方に注目しています。SNSのフォロワー数=ファンという考え方から脱却して、熱狂的なコアファンをいかに獲得するか、そして彼らが繋がり合って新しい体験を共に作り出す場をどう作っていくか。量より質を重視する考え方ですね。Vket Cloudが提供できる体験価値とも通じるものがあると感じます。
喜田 そうなんです。Vket Cloudはブラウザで作るという性質上、企業やクリエイター、インフルエンサーが自分のファンコミュニティに対してSNS等を介して直接提供できるので、大規模なプラットフォームによくある「知らない人が突然やってくる」ということがありません。ウェブサイトを持つ感覚でメタバース空間を持てるように設計しているので、XやDiscordに貼ったリンクを通じて、既存の関係性に近い人だけが入ってくるわけです。
比企 なるほど。荒らしとか、いわゆる「ノイジーマジョリティ」が入ってくることがないんですね。
喜田 はい。メタバースへのアクセスが簡単で、かつ「好き」を起点に仲間と繋がれるクローズドなコミュニティが作りやすい。そこに価値を感じる人に使ってもらっています。このクローズドなコミュニケーションの場って、LINEととても相性がいいんじゃないかと思うんです。
私たちは、メタバース自体を社会のインフラにしていきたいと考えています。Vket CloudのLINEミニアプリが設置されることで、企業や自治体と顧客・ファンとの双方向のクローズドなコミュニケーションが生まれると期待しています。
比企 またファンがLINE上での日常のコミュニケーション上でメタバースに興味を持ちそうな友人にシェアターゲットピッカーの機能を使ってメッセージを送ることにより、受け取った相手がコミュニケーションの中からメタバースに参加できるようになった事も、今までのメタバースになかった体験となります。
メタバースならではの没入感が、顧客やファンの体験価値を向上
草間 Vket CloudのLINEミニアプリで、具体的にどのようなことができるのでしょうか。
喜田 例えば、Vket Cloudで作ったミニゲームをプレイした人にクーポンを配布したりできます。これで、メタバースゲームを通じた没入感のある体験と、クーポンという対価で顧客エンゲージメントを高められるんです。さらに、ミニゲームで出したスコアによってクーポンを複数配布してそれを他のユーザーに自慢がてら共有してもらうことで、ユーザーバイラルを生み出すといったこともできます。他にも、メタバースで仮想店舗を作って、アバターで接客するとか。一日で接客できる顧客の数は限られてしまいますが、少人数の顧客にはECサイトではできないようなリッチな体験を提供できます。常に誰かがいなくても、メタバース上で定期的にイベントを開催すれば、その企業や自治体、サービスの本当に熱心なファンが集まってきてくれるので、親密なコミュニケーションを肌で感じることができるんです。
比企 最近、「イマーシブ」っていう没入感を表す言葉がマーケティングのキーワードになりつつありますよね。私自身、マーケティング施策を成功させるカギは「ユーザーエクスペリエンス」だと思っています。Vket Cloudは、メタバースやゲームを通じて広告を体験に変えるという点で、高いユーザーエクスペリエンスを提供できそうだなと感じます。
喜田 そうなんです。メタバースの中では、たった数人との接触でも没入感のある体験を提供できる。没入感って、その場にいることを感じられることですよね。メタバースではアバターを通じてみんながその場にいるわけですから。ただ、メタバース事業をやっていて難しいなと感じるのは、体験の価値を数値化できないこと。動画広告だとPV数やimp数で価値を定量化できますが、メタバースでは、肌で感じられる圧倒的な価値を証明するのに、従来の広告換算価値が使えないんです。収益化の方法も、まだ確立されていません。この課題を何とか突破していきたいですね。
比企 電通様は、メタバースなどの3D空間メディアが生活者に与える心理的影響やマーケティング効果を分析するため、「ブランドイマーシブタイム(※)」という指標を提案しています。商品・ブランドへの「好意度」「購買意欲」向上に寄与する、メタバースの空間の滞在時間を測るという考え方です。リーチの広さよりも、コアファンと繋がる没入感のある機会をいかに多く設けられるかといった施策が、今後より重要になっていくでしょうね。
※ブランドイマーシブタイム : https://www.dentsu.co.jp/news/release/2024/0610-010736.html
喜田 そうですね。例えば、信頼している友達や家族の言うことは信用できると感じやすいじゃないですか。顔は見えないけど、アバターとして確かにそこに誰かがいるということを感じながらサービスを体験できるというのは、信頼できる人の輪を広げるという点で、メタバースならではの大きな価値だと思っています。
LINEとメタバースの新しいシナジー
草間 最後に、今後の展望について聞かせていただきます。Vket Cloudの今後のサービス展開や、LINEを活用した新しい取り組みの構想があれば教えてください。
喜田 メタバースの潜在的なユーザー数はまだまだ多くないんです。メタバースでどんなに面白い体験を提供できても、そこに人が来なくては始まりません。コンテンツを消費するだけでなく、同じバーチャル空間にいる仲間とお祭りのようなコミュニケーションが生まれていく環境をどうやったら提供していけるか。そういったメタバースの運用にさらにチャレンジしていきたいと思っています。
比企 メタバースの出口戦略としては、リーチを広げるというよりは、体験価値向上という行動変容の部分になりそうですね。不特定多数にリーチして有名になっただけで終わりというのではなく、「好き」で繋がり続けていけるような。
喜田 はい。メタバースは、楽しさや没入感を提供するものなので、情報を簡単に手に入れられるメディアとしての利用には不向きなんです。9,600万人(2024年3月末時点)のユーザーを抱えるLINEと連携することで、圧倒的な入りやすさ、使いやすさ、広がりやすさが生まれます。さらなる価値提供の一つの手段としてメタバースの価値を感じていただけるようになるだろうと考えています。メタバースを活用して自身のコミュニティを作りたいと思っても、実際は集客に苦労することも多い。そこを、LINEという強いインフラの上に乗ることでかなりハードルを下げることができます。
バーチャルからリアルへ波及していくイマーシブ体験を
喜田 LINEはオンラインの場でもオフラインの場でも使われているので、LINEを介してリアルイベントのような場面でもメタバースにアクセスするという文化が普及していくのでは、という大きな期待感も持っています。特にスマホでも動かすことのできるVket Cloudは、様々な場面で力を発揮できるのではないでしょうか。
比企 メタバースが社会的なインフラへと成長していった先には、地方創生が推進されるといった可能性もありそうですね。メタバースを介した関係人口の増加や旅先納税、地域のお祭りをメタバース化して、バーチャルでもリアルでも楽しんでいただくなど。可能性は無限大です。
喜田 リアルに勝る没入感はありませんからね。LINEからメタバースを体験できて、その先のリアルへ効果が波及していく取り組みを進めていけたらいいですね。当社は、バーチャル発のリアルイベントの企画運営もやっているので、それとうまく連携していくのも面白そうです。オンラインでも、オフラインでも楽しめるし、両方ならもっと楽しめる、みたいな形を作れる気がしますね。これから、その具体的なイメージを一緒に考えていけたらいいな、と思っています。
(取材日: 2024年9月: 取材/草間小鳥子, 大場沙里奈)
企業名 | 株式会社HIKKY |
URL | https://hikky.co.jp/ |
会社の紹介情報
株式会社HIKKYは、「Creative Revolution」をミッションに掲げ、“やってみたい”のきっかけを創るVR法人です。 ギネス世界記録™を4つ取得した世界最大級のメタバースイベント「バーチャルマーケット」の主催と、バーチャルマーケットを現実世界で体験できるリアルメタバースイベント「VketReal」の主催、Webメタバース開発エンジン「Vket Cloud」の開発を主軸に、独自性の高いXRソリューションを提供しています。
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