LINE API Use Case
【社内対談/前編】LINEを活用したモビリティサービスの現状と可能性〜LINEプラットフォームがいま注目される理由〜
【社内対談/前編】LINEを活用したモビリティサービスの現状と可能性〜LINE プラットフォームがいま注目される理由〜
LINEヤフー株式会社 福田 真 / LINEヤフー株式会社 永松冬青
2024年5月20日
近年、モビリティサービス・公共交通・MaaS(Mobility as a Service)領域で、LINEのプラットフォームを利用した取り組みが注目を集めています。ユーザーにとって身近なコミュニケーションツールであるLINEを活用することで、利便性の高いモビリティサービスを提供する事業者が増えている一方で、データの取り扱いや決済手段などLINE活用に関する誤解も散見されます。
今回の対談では、LINEヤフー株式会社でモビリティ領域のプロジェクトをリードする福田氏と永松氏に、モビリティ領域におけるLINEプラットフォームの真価についてインタビューします。聞き手は、LINEヤフー株式会社の大場沙里奈が務めます。
前編ではLINEを活用したモビリティサービスの取り組みがどの程度広がっているのか、そしてなぜLINEのプラットフォームが今モビリティサービスにおいて選ばれているのかについて説明します。
後編ではLINEプラットフォームに対するよくある疑問やモビリティの取り組みをサポートできる様々な機能について紹介します。交通事業者の方や、交通サービスを担当されている自治体の皆様など、様々な方にお読みいただけますと幸いです。
LINEヤフー株式会社 福田真氏

LINEヤフー株式会社 福田真氏

マーケティングソリューションカンパニー 経営企画・事業開発統括本部 事業開発本部 事業開発部 サステナブルソサイエティチーム リーダー。2012年に自動車メーカー系金融会社へ入社。キャッシュレスの推進やモビリティスーパーアプリの企画に従事した後、2020年から現職。LINE公式アカウントやLINE APIを活用した新規事業開発を担当し、日本マイクロソフトおよびMicrosoft AzureパートナーとのMaaS・小売DXプロジェクトや、さとふるとの協業による「LINEでふるさと納税」を立ち上げ。

LINEヤフー株式会社 永松冬青氏

LINEヤフー株式会社 永松冬青氏

マーケティングソリューションカンパニー 経営企画・事業開発統括本部 事業開発本部 事業開発部 サステナブルソサイエティチーム。大手IT企業で建設業向けERPパッケージの開発に従事した後、オフィスやホテル等のDXソリューションを提供するスタートアップ企業にてEnterprise企業導入保守責任者を務め、2023年から現職。現在はLINEプラットフォームを活用した新規事業開発を担当しており、MaaSをはじめとした交通領域のプロジェクト等をリードしている。

LINEを活用したモビリティサービスが拡大中!

大場 モビリティ領域でのLINE活用が広がりを見せていますが、具体的にどの程度の規模になっているのでしょうか?

永松 現在、私たちが把握している範囲では、全国約20都道府県、50以上のエリア(当社調べ)でLINEを活用したモビリティサービスが展開されています。特に注目されている取り組みとしては、移動自体の利便性を向上させる「Deep MaaS」ではHELLO CYCLINGやNearMe、移動と他業種をかけ合わせた「Beyond MaaS」では北海道江差町・富山県朝日町の取り組みなどがあります。

全国各地のLINEを活用したモビリティサービス一覧

全国各地のLINEを活用したモビリティサービス一覧

LINEを活用したモビリティサービス事業者一覧

LINEを活用したモビリティサービス事業者一覧

LINEを使ったMaaSのUI例

LINEを使ったモビリティサービスのUI例

大場 すでに20都道府県で使われているのですね!思った以上に広まっていて驚きました。これらの取り組みについて、LINEヤフーはどのように関わってきたのでしょうか。

福田 私たちのモビリティ領域への取り組みは、2021年にMaaSプロジェクトを立ち上げたことでスタートしました。LINEヤフーが交通サービスやMaaSの取り組みを直接実施する形ではなく、各地の事業者様の活動をプラットフォームでサポートする立場を取っています。これにより、全国各地で各事業者様によるLINEを活用したユニークな取り組みが次々と誕生しています。

LINEヤフーの福田真氏と永松冬青氏

LINEヤフーの福田真氏と永松冬青氏

LINEヤフーのモビリティ領域への関わり方

LINEヤフーのモビリティ領域への関わり方

インタビュアーを務める大場

インタビュアーを務める大場

モビリティ領域の取り組みにおいてLINEプラットフォームが選ばれる理由

大場 多くの事業者や自治体が「LINE公式アカウント」※1と「LINEミニアプリ」※2など、LINEのプラットフォームを選ぶ理由は何でしょうか?

LINEミニアプリとLINE公式アカウントの関係

LINEミニアプリとLINE公式アカウントの関係

永松 モビリティ領域でLINEプラットフォームが選ばれる理由は大きく3つあります。フリクションレス・エンゲージメント・ボーダレスです。

LINEプラットフォームを利用する3つのメリット

LINEプラットフォームを利用する3つのメリット

LINEが選ばれる理由①:フリクションレス

大場 それぞれのポイントについて詳しく教えてください。

永松 1つ目がフリクションレスな点です。LINEミニアプリはLINE上で動作するWebアプリケーションで、LINEアプリさえあればすぐに利用開始できるのが特徴です。ネイティブアプリで必要なアプリダウンロードは不要ですし、複雑な会員登録も不要です。よくある会員登録作業として、SMSやメールアプリに認証コードが届き、そのコードを転記して、というのがありますが、これはユーザーからすると非常に手間がかかってしまいますよね。

福田 あまり普段スマートフォンを使わないシニア層の方々も、LINEであればお孫さんとの会話のために利用しているという声をよく耳にします。日常的に使われているLINE上で動作するLINEミニアプリであればユーザーに受け入れられやすいのが大きなポイントです。

大場 シニアの方々が実際にLINEミニアプリを利用できているという事例があれば、ぜひ教えてください。

永松 福岡県宇美町にて運行されている「のるーと宇美町」の事例をご紹介します。予約方法として、電話予約・ネイティブアプリ予約・LINEでの予約、3つの方法を用意していますが、最も利用率が高いのがLINEでの予約で、全予約の45%を占めていると報告されています。60代以上のユーザーに絞ってみてもLINEでの予約が44%と最も高いことが報告されており、全年代の平均と比較しても大きな差がないことがわかっています。

大場 なるほど、年齢を問わずスムーズに利用開始できるというのは非常に魅力的なポイントですね。

永松 もそもスマートフォンユーザーが日常的に使われるアプリは5〜10程度とも言われています。これはモビリティサービスに限った話ではありませんが、新規のアプリがそこに食い込むというのは非常にハードルが高いですよね。だからこそ、このフリクションレスという点が最も重要なのです。当初ネイティブアプリやWebアプリで実証されたあとにLINEミニアプリで正式サービスをリリースされた、伊豆エリアで展開されている「伊豆navi」※などは非常にわかりやすい例です。


※伊豆navi:東急・JR東日本・伊豆急などが中心となり運営する伊豆エリアでのMaaSサービス。2019年から「Izuko」としてネイティブアプリやWebアプリでの実証実験を重ねた後に、2022年にプラットフォームをLINEミニアプリに変更し、「伊豆navi」としてサービスイン。

LINE公式アカウント「伊豆navi」

LINE公式アカウント「伊豆navi」

LINEが選ばれる理由②:エンゲージメント

大場 2つ目のポイントを教えてください。

永松 2つ目は、継続的なエンゲージメントを構築可能な点です。LINEミニアプリは初回利用時にLINE公式アカウントの友だち追加を促す機能があります(※添付画像を参照)。これを利用することで、LINEミニアプリのユーザーが自然な流れでLINE公式アカウントの友だちとなるため、LINEミニアプリのサービス利用後もユーザーと継続的にコミュニケーションを取ることができます。

大場 モビリティの取り組みにおいてLINE公式アカウントはどのように利用されるのでしょうか。

福田 サービス利用に関する通知や、周辺の取り組みの発信などがあります。ユーザーへの通知となると、ネイティブアプリであればアプリのプッシュ通知、Webアプリであればメールでの通知がメインとなりますが、どちらもユーザーに届きにくいという課題があります。LINEミニアプリであれば、LINE公式アカウントにメッセージを送ることができるため、ユーザーに開いてもらいやすいというのが特徴です。

大場 予約やリマインドなどの利用に関連するメッセージも送れますし、過去の利用者に対して再利用を促すようなメッセージやクーポンなどを送ることもできますね。

LINEミニアプリ起点のLINE公式アカウント友だち追加

LINEミニアプリ起点のLINE公式アカウント友だち追加

LINEが選ばれる理由③:ボーダレス

大場 最後の「ボーダレス」についても教えてください。

永松 近年モビリティ領域の取り組みにおいては、交通そのものの利便性を向上させるだけでなく、観光や小売など他業種と交通をかけ合わせた取り組み(Beyond MaaS)が非常に増えています。一方、LINEにはユーザーIDと呼ばれるユーザーを識別するIDが存在します。同一プロバイダー配下に開設されたLINE公式アカウントやLINEミニアプリであれば同一のユーザーIDが発行されるため、複数の取り組みでLINE公式アカウントやLINEミニアプリを展開しても同一のユーザーを識別することが可能になります。これにより、複数の取り組みを横断したデータの活用が可能になります。

大場 なるほど。LINEを活用したボーダレスな取り組みを紹介していただけますか?

福田 2つ紹介します。1つめは富山県朝日町の「ポHUNT」と「ノッカルあさひまち」という取り組みです。「ポHUNT」は町内の移動促進を目的として開発された町おこし施策で、商業施設に設置されたQRコードの読み込みや健康情報にふれることでポイントを獲得できます。マイカー乗り合い公共交通の「ノッカルあさひまち」と連携することで、移動手段の提供と移動需要の創出を同時に行い、町の活性化を図っています。

2つめは、北海道江差町で実施されている「江差マース」という取り組みです。北海道江差町にて実施されている地域住民向けMaaSプロジェクトで、LINE公式アカウントで購買や行動の需要喚起を目的としたメッセージを配信することで住民の移動促進を図り、LINEミニアプリで移動のためのデマンドバスを予約できるようになっています。ここでは、地域の小売事業者など収入の増分を交通サービスの運営に充てる「収益循環モデル」の社会実装を目指しています。

(取材日: 2024年4月: 取材/大場沙里奈, サポート/鈴木敦史)



前編は以上となります。後編では、LINEプラットフォームに対するよくある疑問やモビリティサービスの取り組みをサポートできる様々な機能について紹介します。ぜひお読みください。